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第645話 夏日 18-3

「まあ、そうじゃなきゃ、そう思わなきゃ、やってらんないっすけどね。でなきゃ、仕事休んでこんなとこまで来ませんよ。でも、男としてはまったく相手にされてないっすけど」 「好き……なんだ」  自嘲気味に笑った瀬名くんは眩しそうに渉さんを見つめている。踏み込んでいいものかわからず躊躇ったが、そう聞かずにはいられなかった。車の中で渉さんが僕にじゃれつくたびに、瀬名くんが眉間のしわを深くしていたのに気づいていた。そんな僕の問いかけに、瀬名くんは小さく笑って俯けた顔をこちらへ向ける。 「好き、っすよ。だから今日は敵情視察に来ました」 「て、敵情視察って……もしかして、僕?」 「ほかに誰かいます?」  慌てふためいて取り乱す僕を瀬名くんの目はまっすぐと捉えている。その目を見たら、真剣なんだってことが痛いほど伝わってしまった。 「何度か渉さんの展示を観に来てるのは見かけてました。それにあの人がどれだけあんたが好きなのか、一目でわかるほどわかりやすかった」  好きだから感じてしまう相手の視線の先。そして視線の意味。でも僕はまったくそれに気づくこともなく、渉さんの愛情を友情と捉えていた。 「いまも駄目だってわかってるくせに、諦めたって言ってるくせに、あの人まだ未練たらたらなんすよ。まあ、わからなくもないですけど、あんたすごくいい人そうだし」  悔しそうに眉をひそめる瀬名くんの表情に胸が苦しくなる。人の想いはどうしてうまく絡み合ってくれないのだろう。時折絡まり過ぎて断ち切れてしまう想いもある。 「えっと、でも僕は、渉さんのことは好きだけど、友達以上の好きにはなれない。本当は離れたほうがいいのかもしれないって思ったりもしたけど、やっぱり大事な友達だからそれもできなくて。こんなのずるいんだってことはわかっている。それでもいまはすごくすごく好きな大切な人がいるから、その人以外、考えられないんだ」

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