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第646話 夏日 18-4

「……それも、知ってます。あー、片想いって、いつになったら終わるんすかね」  一方通行な二つの片想い――その終着地点がどこかなんてわからない。引き合うこともあるかもしれないけど、もしかしたら離れてもいくかもしれない。 「おい、センセ。ぼさっとしてるんならこっち来いよ」 「え? あ、峰岸」  ふいに手を掴まれて我に返ると、目の前に笑みを浮かべて僕の顔を覗き込む峰岸の姿があった。その顔を思わず僕はじっと見つめてしまう。ここにも一人、一方通行な想いを抱えているのがいた。 「なに? そんなにじっと見てキスでもして欲しいのかよ?」 「は? 馬鹿だろっ、そんなことは思ってない。それにいまはまだ荷物番だから」  にやりと片頬を上げて笑う峰岸の表情に慌てて手を振りほどきそうになるが、それは容易く遮られ強く手を引っ張られてしまう。 「行ってきていいっすよ。どうせ俺ずっとここにいるんで」  僕と峰岸のやり取りを見ていた瀬名くんが肩をすくめて笑った。 「え? でも」 「すぐそこだしいいだろ、ほら行くぞセンセ」  逡巡している僕などお構いなしに峰岸は手を引く力を強くする。そして半ば引きずられる勢いで立ち上がると、峰岸は僕の手を引いて歩き出した。 「あ、瀬名くんありがとう。あと、諦めないで」  わずかに振り向きながらもそう告げれば、瀬名くんは目を細めながら優しく笑って手を振ってくれた。  終着地点はわからないけれど、片想いはそれが実った時と、新しい恋をした時や本当に諦めた時に終わりが近づく。渉さんにはもっといい恋をして欲しいし、瀬名くんには恋が成就することを祈りたい。そして僕の手を引く峰岸にも幸せな恋をして欲しいと僕は思う。  すべてが丸く収まるなんてハッピーエンドが、そう簡単に訪れるとは思わないけど。大切な人たちが泣いたりしなくて済む結末を僕は探してしまう。

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