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第647話 夏日 19-1

 随分と久しぶりにカメラに触れた。自前のカメラはそんなに本格的なものではないけれど、写真を撮るのは久しぶりで、シャッターを切る瞬間の楽しさが蘇ってくる。カメラは目の前にある感動や喜び、様々な瞬間を写し撮り、切り取ることができる。それは当たり前なようでとても奇跡的に素晴らしいことのようにも思えた。いまこの瞬間のみんなを残しておきたくて、僕はいつの間にか夢中で写真を撮っていた。 「せーんせいっ」  しばらく時間を忘れて写真を撮っていると、急な呼び声と共にカメラの画面いっぱいに片平の顔が写った。驚いてカメラから目を離せば、片平がにこにこと笑みを浮かべて目の前に立っている。その笑みの意味がわからなくて首を傾げたら、腕を掴まれ引っ張られた。 「なんだ、どうした?」  勢いのままに引っ張られて、思わず引きずられそうになる。僕の問いかけに、いいからいいからと軽い返事だけが返され、ますますわけがわからない。 「連れてきたーっ」 「センセどこまで行ってたんだよ」 「え? あー、ちょっとぐるっと近くを回ってきた」  片平の声に峰岸と三島と藤堂が振り返る。呆れたような峰岸の声にへらりと笑えば、なにやら大きなため息をつかれてしまった。写真部の子たちを追いかけて写真を撮っているあいだに、僕は随分と広場から離れてしまっていたようだ。  荷物番のこともあるので、そんなに遠くへ行くつもりはなかったのだが、集中してしまうとつい周りが見えなくなってしまう。ふと集合場所に視線を向ければ、地面に腰を下ろした瀬名くんが変わらず木の下にいた。 「西岡先生、写真撮ってあげる」 「え?」  ふいに背中を片平に押されてよろけた僕は、目の前に立っていた藤堂にぶつかりそうになる。けれど慌てて手を伸ばしてくれた藤堂に支えられ、衝突はなんとか免れた。しかしほっと息をつくと、今度は早く並んでと片平は僕を急かす。 「表情堅ーいっ、もっとスマイルスマイル」 「そんなこと急に言われても」

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