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第648話 夏日 19-2

 いまだよく状況を理解できずにいるというのに、片平はこちらに向けてカメラを構えている。思わず藤堂を見上げれば、彼もまた少し戸惑った表情を浮かべていた。しかしお互い顔を見合わせたまま困惑していると、僕らの様子を傍で見ていた峰岸と三島が背後から近づいてくる。なんとなく嫌な予感がして振り向こうとしたら、二人は一斉に僕と藤堂に襲いかかり脇腹をくすぐりだした。 「ちょ、三島ストップっ」 「やめろ馬鹿っ」  遠慮のない二人に僕らは抵抗を試みるものの、一向にやめる気配がなくそれどころかますます勢いが増した。その感触はくすぐったくってむず痒くて、身悶えるように身体をよじらせてしまう。終いには笑うどころか悲鳴が上がってしまった。峰岸や三島は僕らを笑わせるつもりでいるのだろうが、そんな僕らを見ながら笑う彼らのほうがよほどいい笑顔だ。 「あーっ、もうほんと無理無理、ギブっ」  散々くすぐりまくられて、僕と藤堂は肩で息をしながら両膝に手をついてうな垂れた。 「お前ら、手加減しろよな」 「……ただで済むと思うなよ」  ぽつりと小さな声で呟いた僕と藤堂は次第に息が整い始めると、顔を見合わせお互い小さく頷き合った。そしてすぐ傍に立っていた峰岸と三島に向かい同時に飛びかかった。 「えっ? マジで?」 「西やんっ、ごめんごめんっ」  突然の逆襲に怯む峰岸と三島を捕らえると、僕と藤堂は情け容赦なく二人の脇腹をくすぐった。すると二人の悲鳴にも似た笑い声が響き渡り、僕らも思わずつられて笑ってしまう。そしてカメラをずっと構えていた片平の笑い声も重なり、賑やか過ぎるほど賑やかに笑い声が辺りに木霊した。 「やべー、マジもう声出し過ぎて喉いてぇ」 「笑い過ぎてお腹痛い」  力尽きたように地面に寝転がった峰岸と、膝をついて崩れ落ちた三島を満足げに見下ろし、僕と藤堂は顔を見合わせ笑うとハイタッチした。

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