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第655話 夏日 21-1
先ほどから目の前で落ち着きなくうろたえている佐樹さんの姿を見て、心の内側に少し苛々が募る。その隣で至極楽しげに笑っている月島を見ているとさらにそれが増した気がした。この二人は友達という括りで見ても、距離感がやたらと近い。それに対して慣れなのだろうが、まったく違和感を持っていないあの人が恨めしく思えてしまう。
「藤堂くん、なんか怒ってる?」
「は? 怒ってませんけど」
ふいに横から間宮に顔を覗き込まれて、言葉とは裏腹に思いきり顔をしかめてしまった。そしてそんな俺の反応に目を瞬かせているその顔にも腹が立つ。これは完全なる八つ当たりだが、思うより先に言葉は口から出てしまっていた。
「存外、あなたも顔が笑ってないですよ」
「えっ」
本当に気づいていなかったのか、間宮は心底驚いたように自分の顔を両手で抑えて困惑している。親しげな目の前の二人を複雑な表情で見ていたというのに、無自覚だったとは意外だ。
「藤堂、顔、怖いって」
ため息をつきながら間宮を見ていると、ふいに伸びてきた手が俺の顎を引く。その手に引かれるまま振り向けば、俺の肩に頭を乗せた峰岸が顔を反らしながらこちらを見上げていた。人の内を見透かすようなにやにやとした顔に眉をひそめてしまう。
苛立ち任せに肩を大きく引くと、そこに頭を乗せていた峰岸はバランスを崩してベンチから上半身が落ちそうになる。しかしそこでそのまま落ちないのが腹立たしい。とっさにベンチの端に腕を付くと、身体を捻って人の膝の上に転がった。
「危ねぇ」
膝の上に仰向けで転がった峰岸はふっと小さく息をつく。そして見下ろす俺の視線に気づくとゆるりと口の端を上げて笑った。けれど峰岸は突然感じただろう身体の痛みに、肩を跳ね上げて上半身を起こした。
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