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第656話 夏日 21-2
「あんた、いい加減にしなさいよ」
「なんだよ、いきなり叩くなよ片平」
思いきりよく叩かれた膝をさすりながら、峰岸は自分を睨みつけているあずみに口を尖らせる。だがそんな表情を「可愛くない」と一蹴したあずみはますます視線を鋭くした。
「なんで今日に限ってそんなにべったりなのよ」
「はぁ? 別にいいだろ。センセはあっちを構いきりだし、そしたら俺には優哉しかいねぇもん。それともあずみちゃん構ってくれんの?」
「全然意味がわかんない。どうしたらそういう方程式が組み上がるのよっ」
わざとらしくふて腐れた態度を見せる峰岸にあずみは苛立った声を上げる。それが峰岸の思う壺だという言うことを気づきもせずに、ムッと口を引き結んでいた。ふいに峰岸の向こうにいる弥彦と目が合うと、困ったように肩をすくめる。勘のいい弥彦には峰岸のからかいがわかるのだろう。
「大体あんたはね」
「はっ?」
さらに問い詰めようと声を上げたあずみの言葉がふいに途切れる。それと共に俺たちも突然大きく響いた声に動きを止めた。反射的に声がしたほうへ視線を向けると、顔を赤くしてうろたえた様子の佐樹さんが立ち尽くしている。
なにごとだろうかと皆一様に目を瞬かせる中、その視線に気づいたらしい彼が慌てて「なんでもない」と声を上げて、ストンと落ちるようにベンチに腰かけた。その隣では至極楽しげに月島が腹を抱えて笑っている。
そんな反応に佐樹さんはますます顔を赤らめてなにやら月島に文句を言っていた。しばらくやりとりを見つめていると、ふいに顔を上げた佐樹さんと視線が合う。けれど彼の視線は合った途端にそらされてしまった。
「なんだあれ」
不思議そうに首を傾げる峰岸は彼をじっと見つめている。
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