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第657話 夏日 21-3

 俺はまた少し心の内をくすぶらせてなんとなく嫌な気分になっていた。けれど彼に笑いかけていた月島が急にこちらへ向き直り、俺も思わず首を傾げてしまった。 「ねぇねぇ、君と君バイトしない?」 「は?」  突然指を差された俺と峰岸は同じような声を発して首を捻る。一体なにをどうしたらそんな話になるのだろうかと訝しげに見つめると、月島はゆるりと口角を上げて満面の笑みを浮かべた。 「いま俺が依頼されてる仕事でね、素人の、いわゆる読者モデルを使った企画があるんだけど。ピンと来る子が全然見つからなくて詰んでるんだよね。君たち並びがすごくいいからモデルしてくれない?」 「お断りします」 「うわ、即答。一秒も悩まなかったね」  言葉を紡ぐ月島の声に被せる勢いで返事をすれば、一瞬だけ目を丸くした月島は吹き出すようにして笑った。そして隣にいる峰岸に視線を向けると、小さく首を傾げる。そんな視線に峰岸はほんの少し考える素振りを見せてから、月島の視線を見つめ返す。 「藤堂がやるならやってもいいけど」 「うん、いま断られたよね。でもやる気はないわけじゃないんだ」  小さく笑った月島はちっともめげている様子はなく、俺と峰岸の答えは想定内であったのだろう。しかしふいに困ったような表情を浮かべて隣にいる佐樹さんを見つめる。なんとなく嫌な予感がした。 「残念だなぁ、佐樹ちゃん前に俺の仕事場を見てみたいって言ってたよねぇ。まだ俺の撮る人物モデル写真を見たことないって言ってたよねぇ。ああ、佐樹ちゃん先生だから、彼らだったら保護者引率で簡単に現場へ連れて行けるんだけどなぁ。どうしようか佐樹ちゃん」 「え、えっと、確かに見てはみたいけど。無理には気が引けるし」  これっぽっちも残念そうではない声で大げさに話す月島に顔が引きつる。

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