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第658話 夏日 21-4

 しかし困ったような顔でちらちらとこちらを振り返る佐樹さんの表情に、どうしようもない気持ちが湧いてきた。わかりやすく手のひらの上で転がされているのが一目瞭然なのにだ。 「うっわ、センセその顔、反則だぜ」  苦笑いを浮かべた峰岸が参ったと言わんばかりにうな垂れると片手で顔を覆う。  本当に気が引けて困っているのだろうが、どこか期待に満ちた好奇心満載の表情を浮かべられて、俺たちが頑なに首を振るのは不可能に近い。 「一日だけでいいんだけどなぁ」  追い討ちをかけるような月島の言葉に、佐樹さんの視線がおずおずとこちらへと向けられる。眉尻を下げながら遠慮がちに見つめられて、それを可愛いと思わずにいるほうが無理だ。俺もまた片手で顔を覆うと大きく息を吐き出した。 「俺は夏休みはもう予定空けられません。夏休み明けは日曜しか空いてませんが」  かなり不満はあるが彼の表情に根負けした。無意識だろうけれど、俺の言葉に花が咲いたかのようにふわっと佐樹さんの表情が華やいだ。そんな表情に一瞬だけめまいがする。うな垂れて眉間を指先で揉めば、笑いをこらえて唇を歪ませる峰岸に背中をなだめるように叩かれた。 「夏休み明けの日曜日ね。いいよ、丸一日時間もらうかもしれないからスケジュールは君たちに合わせるからさ。お昼終わったら何枚か二人撮らせてよ。担当に送りたいから」  至極満悦な表情を俺たちに見せると、月島は「ありがとう」と声を弾ませ、おもむろに佐樹さんの両手を握り頬に寄せた。いまこの場所に間宮がいなければ、手近なものを奴に投げつけているか、触るなと口に出しているところだ。そんな気持ちをこらえながら拳を握ると、気持ちを吐き出すように俺は息をついた。

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