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第663話 夏日 23-1
餞別の代わりにもらっておくと唇に指先を当てて笑った峰岸は、軽い足取りで月島の傍へ寄っていった。先ほどの写真を見せてもらっているのか、その表情は実に楽しげだった。そんな様子をぼんやり見ながら、峰岸の言葉の意味を考える。
餞別――それは多分きっと、俺と佐樹さんのあいだでゆらゆらと揺れていた心の針を、ゼロにするということなのだろう。しかしだからといっていきなり砕け散りに行くのはどうかと思う。本気ではない、面白半分なのは目に見てわかるのだが、峰岸の奔放さには相変わらずついていけない。
「渉さんさぁ、いま付き合ってるやついねぇの?」
「ん? いないね。っていうか、俺は特定の相手を作らない主義なんだよねぇ」
ふいに顔を覗き込まれた月島は、興味津々な表情を隠そうともしない峰岸にちらりとだけ視線を向けた。
「へぇ、んじゃセフレだけ?」
けれど明け透けな峰岸の発言に、さすがの月島もカメラに向けていた顔を上げて、自分を見つめている峰岸を見つめ返した。けれどしばらく瞬きを繰り返しながら峰岸を見つめていた月島は、急に吹き出すように笑い肩を揺らす。
「君、面白いね。そんなに俺に興味ある?」
「ある。センセに言うなって言われてたけど、俺は美人って結構好きなんだよな」
「ふぅん、正直者だね。でも俺はネコちゃんにしか興味ないんだよねぇ」
満面の笑みで笑う峰岸に、月島は肩をすくめて笑い返す。しかし峰岸は少し考える素振りを見せてから、月島を再び見つめてゆるりと口の端を上げて笑った。
「そっちでもいいって言ったらどうする?」
相手の瞳の奥を覗き込むような峰岸の視線に、月島はわずかに動きを止める。
「んー、そう返ってくるとは思わなかったなぁ」
言葉で言葉をひっくり返すような峰岸の発言に、ほんの少し目を見開いた月島は、顔を俯けるとなにやら思案し始めた。けれどその時間は短く、峰岸に視線を戻した月島は小さく首を傾げる。
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