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第664話 夏日 23-2

「まあ、確かに俺に興味はあるんだろうし、寝てみたいって気持ちもあるんだろうけど。一真は簡単にそっちには回らないよね? もしそうなるとしたら、もっと時間を長く共有して心を許した人間だけだよ。いま君が身体を許すのは、彼くらいでしょ」  ふいにこちらへ視線を向けた月島がまっすぐに俺を指差す。そしてそんなまっすぐと伸びた指の先と俺の顔を見つめ、苦笑いを浮かべた峰岸は困ったように肩をすくめる。ついには月島が浮かべた不敵な笑みに、峰岸は観念したかのように片手を上げた。 「まあ確かに、その通りだけどな。駄目だぜ渉さん、そんなに簡単に答え合わせしたら。そこの彼が安心しちゃうだろ?」 「え?」  今度は峰岸の視線に月島が驚いた表情を浮かべその先を振り返る。パソコン作業していた瀬名は峰岸が傍に寄ってきた時からじっと二人の様子を見ていた。振り返った拍子に視線でも合ったのか、慌てた様子で月島は視線を落とした。そしてしばらくして大きく息を吐くと、前髪をかき上げながら峰岸に向き直った。 「ほんとに君って面白い子だね。ここまで上手に嘘をつく子は初めて見たかも」 「嘘だってすぐわかったくせに?」 「俺はね、わかったけど。大抵の人は君のその嘘にころりと騙されるよ。うん、九割方は君の嘘に気づかない。んー、なんか俺と似てるね、君は」 「ふぅん、そっか。じゃあ、あんたも手が届かないものに手を伸ばして安心するんだ」  なに気ない調子で紡いだ峰岸の言葉に月島は少し驚いた目をしたが、ゆっくりと瞬きをしてどこか寂しそうな目で笑った。 「そう、届かなければ届かないほど安心するんだよ。届かないってわかってるから、傷も浅くて済むからね」  だから本気になるものほど手を触れずに遠くで、時折近くで見つめ続けてそれで満足しようとする。交わした言葉で少し峰岸と月島の心の距離が近くなったのが感じられた。それは恋とか愛とかそういった感情ではない。似た者同士の心の共有というやつだろう。 「あんたたちは心がこじれ過ぎだ」  呆れた気持ちで二人の傍へ歩み寄った俺は、振り返った峰岸の背中を強く叩いた。

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