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第668話 夏日 24-2
驚いた顔をしているだろう俺を見ながら、柔らかな笑みを浮かべる彼に目を奪われる。
「もう終わっちゃったか?」
「……あ、さぁ、どうでしょう?」
小さく首を傾げる佐樹さんに俺もまた首を傾げると、二人で月島のほうへ振り向いた。そこではなにやら楽しげに峰岸と談笑している姿がある。なんとなく話に割り込む雰囲気ではないと悟ったのか、佐樹さんは少し目を瞬かせて地面に座り胡座をかいている瀬名に視線を落とした。
「瀬名くんはなにしてるんだ?」
「渉さんの担当とか、出版社の担当とかと連絡取り合ってるところっすね」
パソコン画面を覗き込むようにしゃがみ込んだ佐樹さんに、少し戸惑った反応を見せながらも瀬名はぽつりと返事をする。月島の気持ちがまだ佐樹さんへ向いているので、瀬名からすると仲よくしがたいところがあるのだろう。見ているとそれがあからさま過ぎて、少し笑えてしまう。
「そんなことも瀬名くんがするんだな」
「いや、本人が面倒くさいだけで、全然これは俺の仕事じゃないっす」
「あはは、そうなんだ。やっぱり渉さんは瀬名くんに遠慮がないな」
「いつもあんな感じっすよ。渉さんにとって西岡さんが特別なんすよ」
自分へ向けられる感情には本当に鈍いくせに、相変わらず佐樹さんは周りの感情に敏い人だ。しかし困ったように苦笑いを浮かべていた瀬名だったが、急に近づいてきた人の気配を察してほんの少し眉を寄せた。
「佐樹ちゃん午後は自由行動? 俺と一緒にいてよ」
「渉さん待ちの子たち多いだろ」
勢いよく近づいて来て瀬名と佐樹さんのあいだに割り込んでいくと、月島は満面の笑みを浮かべる。けれど困ったように笑った佐樹さんの言葉に小さく唇を尖らせた。
「だから一緒にいて欲しいのに」
「もう藤堂と峰岸のは撮り終わったのか?」
「うん、もう平気。ただ立ってるだけで絵になるってある種の才能だよね。おかげさまですぐに済んだ。佐樹ちゃんも撮ってあげようか」
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