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第670話 夏日 24-4

 それに対し瀬名が「仕方ないじゃないっすか」と小さいながらに文句を言うものだから、ますます月島は不機嫌さをあらわにする。 「やっぱり意外、かな? まあ、いい歳だもんな」 「歳なんて、関係ないでしょう!」  あまりにも佐樹さんがぽつりと不安そうな声で呟くものだから、俺は慌てて言葉を遮る勢いで手を握りしめてしまった。それに驚いて肩を跳ね上げた佐樹さんは、俺を見上げ頬を朱に染める。そしてそんな表情や反応につられ、俺の顔も次第に熱くなってきた。 「あー、あ。もうやめやめっ。こんなピンクな空気の中にいられるほど俺は図太くないし、ほかの生徒さんたちのとこ行ってきまぁす」  散々、瀬名をいじり倒した月島は大げさなほど大きくため息をつくと、ストレッチでもするように背伸びをして俺たちに背を向けた。のんびりとした足取りで歩き出した月島の背中を、瀬名は身の回りの物を鞄に詰め込み追いかけていった。 「んじゃ、俺もお邪魔虫はやめとくか」 「いや待て」  月島たちに続いてこの場を去ろうとする峰岸の襟首を反射的に俺は掴んでいた。広い公園とは言えど、いつどこでほかの部員と鉢合わせるかわからないこの状況下。いま可愛いさを無自覚に放つ佐樹さんといて触れないでいる自信がなかった。  俺の行動に驚きに目を丸くしていた峰岸だったが、気まずい雰囲気を察したのだろう、にやりと片頬を上げて笑った。 「お前が我慢利かねぇってことは、ついに喰っちゃったんだな。はは、飢えてるやつは一回でも味占めるといままで通りの我慢はできねぇよな」  なにもかも見透かした目で笑われて悔しさがあるが、いまはどうしても二人きりでいるのは避けたい。黙って峰岸の目を見つめ返せば、笑いを堪えた峰岸が喉を鳴らして肩をすくめた。 「片平と三島と合流すっか」  携帯電話を取り出した峰岸はそう言ってのんびりと歩き出した。そして俺はよく状況を理解していない佐樹さんを促してそのあとに続いた。

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