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第672話 夏日 25-2

 すると一瞬だけ目を見開いた彼が頬を朱に染め、ぎこちなく俯いた。  本当にこの場所に誰もいなかったら、いますぐにでも抱きしめて、ほのかに染まる頬に口づけて、俯いた視線を自分に縫い止めてしまいたいくらいだ。――そんなことをふと思いながら、自分の自制心がだいぶ緩んできていることに気がつく。外で気安く手を握るなんてしてはならないし、ましてや口づけるなんてことも考えてはならない。ふっと息を吐いて気持ちを切り替えると、俺はまだ少し俯いている彼を横目で見てから、視線を前へ向けた。 「わぁおっ、ここ絶景だ」  しばらく緩い上り坂を歩いて行くと、草木で覆われていた風景が一転して拓けた。たどり着いた場所は小高い丘になっていて、柵で囲われたそこにはのんびり景色を眺めるためかベンチが二つほどあった。  大きな声を上げて感動をあらわにするあずみの言葉通り、そこは見晴らしがよく公園内が一望できるのではないかと思えるほどのパノラマだった。広い中央の広場とその近くにある湖の周りをぐるりと囲むサイクリングコースや散歩道。施設や観賞用の建物、それと手入れの行き届いた庭園や竹林も見える。  この場所は木々の木陰が作り出す涼しい風が吹いて、暑い夏を忘れさせてくれるようだ。清々しいほどの風が吹き抜けるそこで一同、しばらくぼんやりと立ち尽くしてしまった。 「ねぇ、ここで記念撮影しよ」  静かな景色に目を奪われていた皆の中で、いち早く我に返ったあずみが弥彦の腕を引く。するとそれに気づいた弥彦があずみの言葉を察したのか、肩にかけていた鞄から折りたたみの三脚を取り出した。そしてあずみが差し出したカメラを受け取りそれを三脚にセットすると「とりあえず並んで」と俺たちに声をかける。  その声にあずみと俺と佐樹さんはカメラの前に立つが、峰岸だけが動かなかった。

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