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第673話 夏日 25-3
それを不思議に思ったのか、ふいに顔を上げて弥彦は首を傾げた。しかしそんな弥彦の反応に、峰岸も不思議そうな表情を浮かべて首を傾ける。
「峰岸?」
「ん?」
困惑している弥彦同様に峰岸もいまいち状況をよく理解していないようだった。
「なんで入らないの?」
「え? 俺?」
訝しげな視線に変わった弥彦のその目に、峰岸はひどく驚いたような声を上げた。珍しく慌てふためく峰岸の姿を俺たちは物珍しげに見つめる。しばらくそうしていると、息を長く吐き出したあずみが肩をすくめた。
「今更感が満載。あんたの顔なんて散々そのカメラの中に収まってるわよ。さっさとこっち来なさいよ。時間がもったいない」
「あー、マジで、そっか。そうなのか」
苦笑する峰岸と呆れ果てた表情を浮かべるあずみのやり取りで、峰岸の少しばかりわかりにくい謙遜が伝わった。峰岸なりに俺たちの中に混じっていることを遠慮しているつもりだったのだろう。月島たちと別れた時に俺が引き止めなければ、多分峰岸はほかのどこかへ紛れていたに違いない。いつもふざけた調子で遠慮もなく踏み込んでくる男ではあるが、あまり自分が歓迎される立場でないことを感じていたのだ。
ほんの少し照れくさそうな表情で歩いてくる峰岸を見て、佐樹さんは小さく笑う。彼もまたこの場の空気を感じ取ったのだろう。
「あっちゃんと西やん前で、峰岸は真ん中ね。タイマーは十秒だから、行くよ?」
そう言ってボタンを弥彦が押すとカメラのタイマーが動き出し、ちかちかと光が瞬く。急いで走ってきた弥彦が峰岸の隣でほっと息を吐いて数秒、カメラがシャッターを切った。そしてあずみは小走りにカメラに駆け寄り、いまの写真を確認する。その顔は至極満悦した笑みで、思いのほかうまく撮れたのだろう。
「今日一日ここで撮ったもので展覧会に出せそう」
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