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第676話 夏日 26-1
峰岸に言われた通り一度味を占めてしまうと、いままでできたはずの我慢が利かなくなってくるようだ。けれどまたあの時のように触れられなくてもいい。せめてこの手に繋いで、抱きしめていられるだけでもいい。いまの俺はそれだけでも幸せが有り余るほどに思える。
「先生、優哉っ、次行くわよ」
ふいにかけられた声に二人で顔を上げて振り返る。そこでは少し呆れたような顔をしたあずみが立っていて、峰岸と弥彦は一足先に歩き出していた。
「人目がないからってラブラブし過ぎ」
「えっ、そ、そんなんじゃないぞ。ただちょっと色々教えてもらってただけだ」
あずみに歩み寄るとふっと目を細められ、ため息を吐き出される。それに対して佐樹さんは慌てたように首を横に振るけれど、あずみにそんな言い訳が通用するわけもなく、再び今度は大きなため息を吐き出された。
「一緒にいるだけでラブいオーラが漂ってくるのよっ」
「オ、オーラって」
呆れた調子のままくるりと方向転換すると、あずみは前の二人を追いかけた。そこに残された佐樹さんはそろりと助けを求めるように俺を上目遣いに見上げてくる。これにまったく計算やあざとさがないというのだから困ったものだ。
助けてやるどころか、俺はおもむろに彼の身体を抱きしめて唇を奪っていた。しかも人がいないのをいいことに、身をよじって逃げ出そうとする佐樹さんの動きを封じると、深く口づけて貪るように口内を撫で上げ舌を絡めとった。
逃れきれないと思ったのか、佐樹さんが何度も背中を叩いてくる。必死なその小さな抵抗に俺は仕方なしに唇を離した。けれど濡れた唇の端に唾液が伝い落ちたのを見て、思わずそれを舐め取ってしまう。
「と、藤堂っ」
耳や首筋まで真っ赤にした佐樹さんが、精一杯の力で腕をつっぱり俺の肩を押す。そんな姿が可愛くて仕方がない俺は、片手を掴むと指先を微かに含むように口づける。
「馬鹿っ、これ以上したら怒るぞっ」
口づけた手を振りほどき、挙動不審なくらいにガチガチに固まってしまった姿がさすがに可哀想だと思ったが、やはりどうにも俺の中の加虐心は煽られてしまう。
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