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第677話 夏日 26-2

「俺、最初に言いましたよね。今日は二人だけでいると我慢できそうにないって」 「た、確かにそうは言ったけど。いまは二人きりじゃないぞ」 「ほぼ二人きりです」  うろたえて目を右往左往させる佐樹さんに苦笑いを浮かべて、あずみたちが歩いて行ったほうを見れば、そこに姿はもう見えなくなっていた。 「じゃあ、すぐ合流するっ」  ほんの少し拗ねたように口を引き結んで、佐樹さんは小走りで道の先へ進みだした。けれどそれを追いかける俺は彼の手首を掴みその足を引き止める。 「待って、今日は終電まで佐樹さんの家にいていい?」  突然引き止められた佐樹さんは振り返り一瞬目を見開いたが、俺の言葉にまた顔を赤くして、しばらくすると小さく頷いた。その返事に心の内に溜まっていたものがすべて霧散した気分になる。そして俺は掴んでいた手をゆっくりと離して、立ち止まった彼を促すように背を押して歩き出した。  少し早歩きで歩いていくと、道の途中であずみと峰岸が呆れた顔をし、弥彦が困ったように笑って待っていた。 「いちゃこら歩いてんじゃねぇよ」 「ひと気のないとこにいると狼に襲われるわよ先生」  俺たちの姿を認めた三人はまたのんびりと歩き出す。もうここから集合場所の広場まではあと少しだ。峰岸とあずみの言葉に再び顔を赤くしながら、佐樹さんはそれを隠すように少し俯きがちに歩く。 「早いお帰りですね」 「おかえりなさい」  五人で集合場所に戻ると、荷物番の北条と行き場が見当たらなかったのだろう間宮が、ノートパソコンに向けていた顔を上げて俺たちに笑みを浮かべた。どうやら暇を持て余し二人でゲームでもしていたようだ。しかし早いと言っても、もう十六時まであと十分足らず。  だが周りを見渡すとほかの生徒たちはまだ戻っている気配はなく、目の前の広場にもその姿はなかった。しかし北条も部長であるあずみもそれは想定内なのだろう。あまり慌てる様子もない。元々こういった状況を踏まえて集合から撤収までに三十分の時間を設けているのだ。

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