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第681話 夏日 27-2

 だがいまだに膠着状態は続く。けれどふいにこの空気にそぐわないのんびりとした声が響いた。 「間宮先生、峰岸も早く帰りたがってますし。西岡先生には月島さんたちもいるんだから、片平や三島に任せていいんじゃないですかぁ」  その声はすでに間宮の車に乗りこんでいた北条で、窓から顔を出し不思議そうな顔をして車の持ち主を見つめている。どうやら北条にはこの複雑に絡み合った糸がまったくもって見えていないようだ。しかし正直見えてもらってもややこしいだけなので、このあまり周囲に興味を持たない抜けたところに救われる。  思えば北条は職員室であれほど間近で顔を合わせたのに、俺に気づかないほど他人に興味が薄い男だ。そしてさすがに先輩に当たる人物にそう言われては間宮も引かざる得ないらしく、ほんの少し眉を寄せつつも間宮は「わかりました」と小さく呟くように言うとやっと引き下がった。  思いきり後ろ髪を引かれているのが一目瞭然な表情で間宮が運転席に乗り込むと、峰岸がこちらを見つめにやりと片頬を上げて笑う。その表情に含まれているものを悟りながら俺が眉をひそめれば、緩く手を振って峰岸は後部席へ姿を消した。 「で、佐樹ちゃんはどっちに乗って帰る?」  間宮の車が駐車場を出て行くと、俺たちの攻防を少し離れた場所で見物していた月島が、ようやく終わったかという風情でゆっくりとこちらへ近づいてくる。 「うちは彼氏くんも一緒で構わないよ」 「えっ、ああ、うん。どうしようか」  選択肢はこれから来るあずみの母親の車で帰るか、月島の車で帰るかだ。ふいに困ったような表情を浮かべる佐樹さんに首を傾げて見せると、また眉を寄せて小さく唸り出した。けれどそんな表情さえも可愛らしく見えて、思わず俺は優しく彼の髪を撫でてしまう。そしてその感触に驚いたように顔を上げた佐樹さんは目を丸くしている。 「ああ、すみません。もし俺のことで悩んでいるなら気にしなくていいですよ」  さらさらとした柔らかい佐樹さんの髪を撫ですくいながら指先で触れていると、しばらく考え込んでいた彼がおずおずとした様子で少し俯きがちになっていた視線を持ち上げる。

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