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第682話 夏日 27-3
「ん、だったら……渉さんにお願いしてもいいか?」
じっとこちらを見つめる視線に微笑み返せば、ほっと佐樹さんは小さく息をついた。どうやら俺の予想通りのことで悩んでいたようだ。月島の車となると一時間ほどは狭い空間に一緒にいることになる。
月島と俺の仲は正直言ってあまりよくないから、佐樹さんとしては気が引けていたのだろう。けれどあずみの母親の車で帰るとなると、今度は俺が佐樹さんのマンションで一緒に下りる理由が必要になり、少々話が面倒くさくなる。
「あ、うちの車も来た」
結論が出たところで駐車場にイエローのコンパクトカーが一台入ってくる。今朝、自分も乗せてもらった車なのですぐに目に付いた。あずみが腕を上げ大きく手を振ると、その車はすぐ傍に停車した。
「あずみ、弥彦ちゃん、優哉くん遅くなってごめんね。ちょっと途中渋滞にはまっちゃって」
慌てた様子で車から下りてきたあずみの母親は、胸もとまで伸びたまっすぐな黒髪に黒目がちな大きな瞳。細身のスキニーデニムを履きこなしたすらりとした美人だ。雰囲気からも見て取れるサバサバとした快活な性格で、あずみがいまのまま成長したら、こんな感じになるだろうというのがひと目で見てわかる容姿だった。
「大して待ってないから平気。荷物積んでいい?」
「オッケーオッケー、いまトランク開けるわ」
母親がトランクを開けると、行きとは違い軽くなったクーラーボックスを二つとも持ち上げて弥彦が開いたトランクにそれを収めた。
「あ、こちらは先生?」
慌てていて気づくのが遅れたのだろう。ふいにあずみの母親は佐樹さんや月島たちに視線を向ける。
「西岡先生と今回講師をしてくださった写真家の方」
「はじめまして西岡です。いつも片平さんや三島くんにはお世話になってます」
あずみの紹介に佐樹さんは笑みを浮かべて頭を下げる。月島たちも軽く会釈をしてあずみの母親の視線に応えた。月島は詳細内密となっているので、あずみもあえて名前を出すことはしなかったのだろう。
「帰りは優哉、西岡先生たちの車に乗るから」
「えっ? そうなの?」
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