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第684話 夏日 28-1
出発した車は渋滞にはまることなく順調に走っていた。けれど少し進んだ先にあるサービスエリアが近づくと、月島が急にそこに寄りたいとごねだす。寄ってどうするんだとため息をつく瀬名に月島は腹が減ったと口を引き結ぶ。ついでに地酒かワインと言えば、ますます深いため息が瀬名の口から吐き出される。
「いいっすか?」
バックミラー越しに俺と佐樹さんに了承を求める瀬名に、俺は佐樹さんに向かって頷いた。すると少し運転席に身を乗り出した佐樹さんが「ついでに僕も買い物したい」と言い出す。一体なにを買うのだろうかと思わず首を傾げると、佐樹さんは俺を振り返り笑みを浮かべた。
「弁当とか買おうと思って。帰ってお前に晩ご飯を作らせるのは申し訳ないからな。瀬名くん買い物行くよな? 僕も一緒に行っていいか?」
再び運転席のほうへ顔を向けた佐樹さんに、瀬名はちらりと視線を右に流しながらぎこちなく頷く。
「俺は構わないっすけど」
「えー、佐樹ちゃんが行くなら俺も行く」
月島の言葉を予測していただろう瀬名は、ふて腐れたような顔で佐樹さんを振り返る月島に肩を落とした。そんな光景はいつもこの調子で瀬名が月島に振り回されているのだということを裏付ける。けれどそんな月島に対し、佐樹さんは躊躇うことなく顔を横に振った。
「駄目だ。渉さん目立つし、藤堂と待ってて」
「俺も留守番ですか?」
思いがけない言葉につい声が大きくなってしまう。けれど振り返った佐樹さんは迷うことなく頷いた。
「もちろん、だってお前も目立つから。瀬名くんも目立ちそうだけど、僕が一人で行ったらお酒のことさっぱりわからないし」
きっぱりと留守番を言い渡された俺と月島は、恐らく互いに微妙な表情を浮かべて佐樹さんを見たに違いない。けれどふっと吹き出すように佐樹さんは目を細めて笑った。留守番に若干の不服はあるが、その可愛らしい笑みに免じてここは彼の言い分を飲み込むことにした。
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