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第685話 夏日 28-2
パーキングエリアに車を停めると「早めに戻るから」と、佐樹さんは瀬名を連れ立って足早にサービスエリアの店内へ入っていった。残された俺たちのあいだにはしばらく沈黙が続く。これといって話すことも思いつかず、ぼんやり窓から外を眺めていたら「ねぇ」と小さな呼び声が聞こえる。その声に視線を前に向けると、目の前の助手席に座る月島が窓を開けて煙草に火をつけていた。
「順調そうだね、お付き合い」
「それは、どういう意味だ」
「えー、どういう意味もなにも言葉のまんまじゃない?」
ふぅっと長く吐き出した月島の息と共に、細く伸びた紫煙が窓の外へ流れていく。それをなに気なく視線で追っていると、小さな笑い声が聞こえた。訝しく思いバックミラー越しに月島を見ると視線が合った。
「前よりもだいぶ佐樹ちゃんと距離が近くなったし、俺に対する警戒もあんまりしなくなってるし、どうしたのかなと思って」
口元を緩めて笑う月島の視線には特別からかいの色は見られない。ただ単にそれに対して純粋な興味があるだけなのだろう。
「俺はあなたが嫌いでした」
なので思っていることを繕わずに話してしまおうと思った。
「でした、過去形だね」
「いまは過去形だ。昔から俺はあなたが嫌いだった。疎ましく思ってましたよ」
「俺と君、昔からそんなに接点あったかな」
煙草を口に咥え、不思議そうに首を傾げる月島に俺は小さく息をつき、再びバックミラーを見つめた。恐らくいま月島はRabbitでのことを思い返しているのだろう。確かにあそこでの俺と月島の接点はほとんどない。
店で顔を合わせても挨拶するような間柄ではなかったし、言葉を交わしたのは佐樹さんが雪の日にあそこへ来た時くらいだ。要するにほとんどどころか、まったくもって接点はない。
けれど俺にとってはそうではなかった。
「俺が佐樹さんと出会ったのは五年くらい前です。あの雨の日、いまにも崩れ落ちそうなほど小さく見えた。そんなあの人になぜか俺は惹かれたんです」
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