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第687話 夏日 28-4

「それから月に二度三度くらい。佐樹さんの最寄り駅へ寄るのが癖になった。でも顔を合わせる勇気はなくて、いつも遠くから姿を眺めてるだけだった。佐樹さんが仕事から帰ってくる時間はだいたい一緒で、でも時折その時間に帰ってこない時もあった。それとたまに知らない人と駅前で待ち合わせて立ち話をしていることもあった」 「ちょっと待った」  ぽつぽつと語る俺の独白を月島が大きな声で止めた。煙草を慌てて灰皿で捻り消し、振り向いた月島の顔はあ然としていた。けれど俺はその反応に驚きはしなかった。なぜなら――。 「その知らない人ってもしかして、俺のこと?」  それは月島が言う通りだからだ。  普段の佐樹さんはあまり浮かない顔をしていて、背を丸めたみたいな後ろ姿でマンションに帰っていった。けれどたまにやってくる月島には親しげで楽しげな笑みを浮かべていた。  それにあの雪の晩も、佐樹さんはなんの躊躇いもなく月島を抱きとめ、その手を握った。それがまるでごく自然で当たり前であるかのようにさえ見えた。そのやり取りを見た時、彼の心はもう他人のものになってしまったのかとさえ思った。 「待って、待った。君それは運が悪過ぎだよ。俺が佐樹ちゃんのところへ行くよりも何倍も、明良が佐樹ちゃんと一緒にいることのほうが多かった。時間が遅い時は大抵決まって明良のところにいたし、俺が佐樹ちゃんに会いにいくなんてほんと、月に一度や二度あるかないかだよ」 「それでも俺にとっては目の前のことがすべてだったんだ。だから写真展の日に会った時も愕然とした。なんでこの男はこんなにも俺の目の前に現れるんだろうって、そう思った」 「タイミングが悪過ぎだよほんとに、誤解し過ぎ」  ため息交じりに呟いた月島は俺の顔をじっと見つめた。いまの俺は一体どんな顔をしているのだろう。はっとした様子で驚きに目を見開いた月島が、ひどく切なげな目をして俺を見つめている。そして困ったように笑って小さく首を傾げた。

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