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第691話 夏日 29-3
そっと添えられたその手はやけに温かくて、自分が血の気が引くほど冷えていたのだと気がついた。
与えられるぬくもりは心の内を蝕んでいたものを追い払うかのように優しくて、温かくて、俺は自分の手をその手に重ねる。添えられた手に寄り添い目を閉じると、今度は優しい音が聞こえてくるような気がした。ほんの少し早いが規則正しい音。自分の心音なのかもしれないが、それが目の前にいる彼のモノのような気もして、心が落ち着いた。
しばらくそうしていると、微かに近づいた気配と共に唇に柔らかくて温かいものが触れた。それに驚いて目を開ければ、ほんの少し頬を朱に染めこちらを見上げる視線とぶつかった。急に目を開いた俺に驚いたのか、彼は慌てたように目を伏せて頬や耳まで赤くする。そんな目の前の可愛い人に胸が締め付けられて、たまらず俺は抱きついた。
「佐樹さん可愛い、好き、愛してる」
こんな言葉だけじゃ足りない。彼は俺にとっては一筋の光だ、道を見失わないよう照らしてくれる唯一の光。
「な、なんだよいきなり」
頬をすり寄せ、額やまぶたや頬に口づける俺に、佐樹さんは慌てたように身を引こうとするが、抱きしめる腕に力を込めてそれを阻止した。困ったように眉を寄せながら、頬を染めて見上げる目の前の彼が愛おし過ぎて、この場所がどこであるかも忘れて俺は口づけた。
追い詰めるように口内の彼の舌を追いかけ絡めとると、鼻先から小さな甘い声が抜ける。必死に俺の着ているシャツにしがみつく様が可愛らしくて、腰を抱き寄せさらに奥へと押し入る。すると二人分の溢れた唾液が佐樹さんの唇の端を伝いこぼれ落ちる。それでも貪ることをやめずに、舌を擦り合わせ上顎や歯列を撫で上げた。
そのたびに小さな声が漏れ聞こえて来て、普段なら落ちる前に離してあげるのだが、止められずに追い詰めてしまう。カクンと膝の力が抜けた佐樹さんの身体が胸にしなだれかかった。
瞳が潤んで、赤く染まった目尻に溜まる涙がいまにもこぼれ落ちそうで、それがやたらと扇情的に見えた。
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