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第697話 夏日 31-1

 薄らとした湯気が覆う中に何度も甘やかな声が響いた。寝室とは違い、明る過ぎてすべてが見え過ぎるこの場所が羞恥を煽って仕方がなかったのだろう。繰り返し「恥ずかしい」と顔をそらし泣き喘ぐ声が可愛らしくて、そのたびに追い詰めて甘い声を堪能した。  けれども「部屋がいい」という甘えた声にも逆らいきれず、濡れそぼった身体を大きなタオルで包みしっかりと水気を拭き取ると、小さな身体を抱き上げて寝室のベッドに埋めた。すると間接照明のみのぼんやりとした灯りに安心したのか、ふっと表情が柔らかくなるのが見えた。  そっと縁をなぞるように頬を撫で、顎を指先で下から上へと伝うように撫で上げれば、子猫のように目を細めて指先に逆らわず顎を持ち上げる。視線と視線が薄暗い中で重なりどちらからともなく唇が触れ合った。  その後はもうどちらから求めたのかわからないほどにお互い夢中になっていた。あまり色事に関心がないのかと思っていたけれど、二回目ということもあってか最初の時のような緊張感はほとんどなかった。そしてそんな素直に行為に応えてくれる佐樹さんが可愛くて、何度も求められるままに甘やかしてしまった。  余すことなく唇で触れ、指先でなぞるたびに小さな声が聞こえてくる。それはまるでその先をねだるようにも聞こえ、時折性急に身体を揺さぶってしまうけれど、それでも腕を伸ばし抱きつかれてしまうと、そんな勢いさえ包み込まれてしまう。そして本人はまったく気づいていないようだが、感じて身体をくねらせるたびに唇が触れた肌や指を甘噛みしてくる彼の小さな癖を見つけて、一人優越に浸る自分にも苦笑した。  目の前で艶めいた彼は自分だけのものなのだというこれ以上ないほどの優越――そして至福。手の中に収めて逃さないように閉じ込めてしまいたい衝動に駆られるが、不自由に鎖に繋いでおくには彼は純白過ぎる。そして陽の光の下がどの場所よりも一番似合う人だ。そんな彼に愛しげに呼ばれるそれだけでも、充分幸せなのだと俺は華奢で綺麗な身体を強く抱きしめた。  だから重たい鎖は何者も繋ぐことなく心の片隅に消える。

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