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第698話 夏日 31-2

 規則正しい寝息。枕に散る柔らかな髪の毛。時折揺れるまつ毛。どんな夢を見ているのか、そんな想像をしながらも、俺はベッドの端に腰かけ佐樹さんの肩を優しく揺さぶった。何度か揺すったり、背を軽く叩いていると、小さな声と共にまぶたが動きまつ毛が震える。小さく耳元で名前を囁けば、閉じられていたまぶたがゆっくりと持ち上がってきた。 「佐樹さん、起きた?」 「ん、もう時間か?」  洗濯を終え乾燥させたシャツやデニムからは佐樹さんの家の香りがする。それを感じたのか、ほんの少しスンと鼻を鳴らした彼は寝ぼけまなこで顔をこちらへ向けた。 「はい、もうしばらくしたらここ出るので、起きてください」  タオルケットの端を握り胸元に丸め込んでいた佐樹さんは、その手をゆるりと持ち上げてまぶたを擦った。けれどその表情はまだぼんやりとしていて、寝起きの頭の中はすっきりとしてはいない様子だ。  しかしまだ眠たげな彼を寝かせて置いてあげたいが、いまだに俺が勝手に部屋の中から消えることを怖がる彼を起こさずにはいられない。小さな子供をなだめすかすように髪の毛を梳いて頭を撫でると、視線がふっと持ち上がりこちらを見つめる。淀みのない綺麗な瞳に見つめられて、胸がどきりと少し高鳴った。 「藤堂、起きられない」 「え?」 「身体ダルくて」  ふいに眉をひそめて口を小さく尖らせた彼が目を伏せる。そしてよくよく見ればほんのり頬が赤い。そんな表情に頬を緩めて口の端を上げると、俺は目を細めて笑った。 「佐樹さんが何度もねだるからいけないんですよ」 「うるさい」  からかう声で言った俺にぺちりと軽く当たる程度の小さな反撃は飛んできたが、俺の言葉を否定する言葉は返ってこなかった。照れくささを隠すためなのかほんの少しふて腐れたような表情を浮かべる佐樹さんが可愛くて、身を屈めて額に唇を落とした。 「佐樹さん結構途中で意識飛んじゃうから、無理させないように俺も気は使ってるんですけどね」 「ん? そんなに飛んでる?」  心底驚いたように目を瞬かせる表情に思わず苦笑いが浮かんでしまう。

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