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第700話 夏日 31-4
そんなことを思うはずがないということがわからないのだろうか。握られた手を握り返して指先に口づけると、俺はその手に指を絡ませ繋ぎ合わせた。
「どうして呆れるの? どう考えても微妙な反応されるより、素直に感じていてくれたほうがいいでしょ」
「まあ、うん、そうだけど」
まだ納得いかないのか少しばかり小さく唸っている。しかしそれがたまらなく可愛くて、丸まったタオルケットごと抱きしめて俺は頭の辺りに唇を寄せた。
「それにそっちのほうが俺は嬉しいです。俺だけ気持ちよくなってても仕方がないし」
「……藤堂、気持ちいい?」
ふっと俺の言葉にタオルケットの隙間から窺うような瞳が見えた。警戒した子猫がタオルケットに包まっているようで、可愛過ぎるその姿に口の端を緩めると、俺はマットレスに手をついて繋がった手をそのままにベッドの上へ乗り上がり、彼の身体を跨いだ。
「すごく」
そしてそう耳元へ返事をして微笑むと、俺は眼下の視線を見つめた。目の前の佐樹さんは自然と俺に腕を引かれ、仰向けになってしまっていた。彼を覆い隠していたタオルケットがはらりとこぼれ落ち、目を丸くし頬や首筋までも赤く染めた佐樹さんの表情があらわになる。驚きと羞恥で開かれた瞳はひどく綺麗で可愛くて、愛しさと共に悪戯心も刺激されてしまう。
「佐樹さんの中にいるの気持ちいいよ」
あえてはっきりと言葉にして見つめ返す。すると明らかに動揺した様子の佐樹さんが右往左往と視線をさ迷わせ始めた。
「やめろよ、お前ずるい。そんなに真顔で、そんなこと、言うなっ、恥ずかしい」
「聞いたのは佐樹さんでしょ」
急に子供のようにジタバタと暴れて手を振りほどいた佐樹さんは、俺の顔を覆い隠しているつもりなのか、両手を俺の目の前にかざし、近づこうものなら全力でその腕を突っ張る。しかしそれでも身体を寄せようとする俺に、佐樹さんは抵抗をやめて自分の顔を覆い隠した。顔を隠したままころんと横になってうずくまるそんな姿に小さく笑って、俺はベッドに腰を下ろすと、細い腰に腕を回し引き寄せた。
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