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第706話 夏日 33-2
「はぁ、なんだかドキドキするな」
実家へ来てもらうのは二度目だけれど、二泊三日ともなると一緒に時間を過ごす期間では最長だ。一日早く実家に帰っていた僕は、嬉しさと緊張がないまぜになって朝からまったく落ち着かなかった。そしてそんな気持ちを紛らわそうとあれこれ家の手伝いをしていたら、うっかりして乗るバスを一本逃してしまった。
けれどバスに乗ったいまでさえ、早く会いたいなと心は急いている。ゆっくりと狭い道を走るバスがもどかしくて仕方がない。どうにも僕は日増しに欲張りになっている気がする。藤堂が傍にいてくれることが当たり前になり過ぎていて、離れているいまこの瞬間が物足りない。
ずっとそわそわした気持ちを抱え窓の外を眺めながらバスに揺られていると、バスは次第に駅へ近づいていき、僕の胸の高鳴りもそれと共に早まっていた。だからこの時の僕は、ふわふわと浮かれた気分で大事なことを忘れていた。
「藤堂っ」
駅前にバスが着くなり僕は慌ただしくバスを下車し、駅の改札に向かって走った。それほど大きくない駅であると共に、背が高く見目のいい藤堂はひと目でその姿を捉えることができた。駆け寄る僕に目を細めて笑う優しい表情に、なぜだか心からほっとした気分になる。
藤堂の笑顔が見られるだけでこんなにも胸が温かくなる。緩む頬には気づいたけれど、にやけた顔のまま僕は大きく手を振った。
「遅くなってごめんな。ぼんやりしてたらバス出ちゃってて、近くの路線は十五分に一本くらいしかバス通ってなくて、それも乗り損ねそうになって」
「大丈夫ですよ、そんなに待ってないですから」
慌てて早口になる僕に藤堂はほんの少し吹き出すように笑うけれど、緩んだ頬はさらにふやけたようになってしまう。
「あ、もうすぐで佳奈姉が買い物から帰ってくるらしいから、家まで車、乗せてってくれるって、少し待ってもらっていいか?」
「はい」
いつもよりも柔らかな表情でこちらを見つめる視線は、緩みきっている僕の顔に気づいてのことだろう。
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