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第708話 夏日 33-4

「優哉くん久しぶりっ、相変わらずのイケメンっぷりね」  僕らが車に乗ると、開口一番に佳奈姉はそう言って満面の笑みを浮かべた。それに少し戸惑いながらも藤堂は「お久しぶりです」と小さく笑った。 「じゃあ、ちゃっちゃと帰るわよ」  控えめながらも微笑んだ藤堂の表情に満足いったのか、佳奈姉の運転する車は軽快に流れる車内の音楽のように勢いよく発進した。その滑り出しに、そういえばこの姉の運転はいつも心臓をひやひやさせられるのだったと肩が落ちる。  慣れきっている道なので本人はまったく気づいていないようだが、久しぶりに乗ると乗せられたほうは身の縮む思いをする。冷や汗が出そうなそんな心中複雑な僕をよそに、あまり道幅の広くない道路を車は勢い落ちることなく実家へと向け走った。 「そういえばお母さんから連絡あって、佐樹と入れ違いで詩織姉さんたちがうちに着いたらしいわよ」 「あ、そうなのか。バスに乗ってる時に保さんの車とすれ違ったのかな」  ちらりとバックミラーから視線を投げられて、僕は首を傾げた。バスに乗っている時は藤堂のことで頭がいっぱいになっていて、長女夫婦のことなど頭からすっかり抜け落ちていた。夏休みにしか実家に帰省せず、たまに用事がある時くらいしか顔を合わせないので、年に数回ほどしか会えないというのに、自分のことながらなかなか薄情な弟だ。 「もうちょっと顔合わせてあげな。姉さんは保さんの次にあんたが好きなんだから」 「向こうが約束より保さん優先するから会う回数減るんだよ。僕のせいじゃない」  詩織姉の住んでいる場所は実家よりだいぶ遠く、丁度僕の家辺りが中間地点になる。そのため母の頼まれごとで会う約束をするのだが、なによりも旦那さんである保さん優先な姉は、彼の予定が変わり一緒にいられるとわかった途端に、先約である僕との予定を軽くすっ飛ばしてしまうのだ。  何度とがめても一向に改めてくれる気配がないので、もうそれはすでに諦めの境地だった。

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