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第710話 夏日 34-2

「姉さん感動の再会はあとにしてよ。買い物してきたの生ものもあるし冷蔵庫にしまっちゃいたいの」  複雑な僕の心中を知ってか知らずか、そそくさと家に上がった佳奈姉が呆ける姉を振り返り叱咤する。そしてその声に我に返ったのか、僕らの手に携えられた買い物袋に詩織姉は視線を落とした。 「あら、すごい量。何日分?」 「とりあえず一日半分。また明日買い物よ」  肩をすくめた佳奈姉はそう言ってのんびりとリビングのほうへ姿を消した。そんな姿を振り返り視線で追っていた詩織姉は、こちらへ視線を戻すと膨れ上がった買い物袋に手を伸ばし「持とうか?」と言う。けれど買い物袋は重量がそこそこあるので、僕は首を横に振りとりあえず家に上がらせてくれと訴えた。  リビングへ足を踏み入れるとオープンキッチンに立つ母が顔を上げ、リビングのソファに腰かけていた保さんが振り返った。保さんとは夏の帰省時にしか会わないので約一年ぶりだ。自営で建築関係の仕事をしている保さんは体格がよく、背丈も高いのでとても大柄なのだが、穏やかそうな雰囲気と顔立ちで厳つさがまったくない。いまも優しげな目を細めて「おかえり」とのんびりとした声音で話しかけてくれる。 「優哉くんいらっしゃい」 「こんにちは、お世話になります」  そんな中こちらを見ていた母は、藤堂がリビングに足を踏み入れると同時に至極嬉しそうに顔を綻ばせた。そんな表情に小さく頭を下げた藤堂を振り返って見ていた僕は、なんとなく違和感を覚えて小さく首を傾げる。  普段だったら僕のそんな反応を見て応えてくれる藤堂だったが、いまはどことなく表情が硬く僕の視線にも気がついていないようだった。しかし珍しい藤堂の様子に戸惑っていると、ダイニングテーブルに備えている椅子に腰かけ、ひと仕事終わったとばかりにビールを片手にしていた佳奈姉が手荷物を片付けるように急かす。

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