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第713話 夏日 35-1

 僕はいつだって浅はかで、後手に回るばかりだ。臆病で恐れるものに蓋をしてしまうような卑怯者だ。何度も同じことを繰り返しているのに学習しなくて、いつだって周りに救われてようやく気づく。どうしていまこの場所で、藤堂のことを隠してしまおうと考えたのだろう。後ろめたいから?  いや違う、僕は傷つくことから逃げ出そうとしたんだ。きっと大好きな家族に目を背けられるのが嫌で、それを隠してしまおうと思った。後ろめたいなんて考えたこともなかったのに、本当は否定されるのが怖いと思っていたんだ。  けれどこんなに狡くて弱い僕の手を、藤堂は強く握りしめていてくれる。本当に僕は馬鹿でどうしようもない人間だ。その手が、その心が、藤堂が、僕はなによりも尊く大切な愛おしい存在なのだと、そう思っていたはずなのに、とっさに保身に走ってしまうなんて醜くて――心底自分が嫌になる。 「優哉くん、佐樹のことは小さい頃からずっと見てきたけれど、断言して恋愛対象は男性ではなかったと思う。いま付き合ってるってことが本当だとしたら、あなたからとしか考えられないんだけど」  きつい目で藤堂を見つめる詩織姉からは怒りに似た感情が伝わる。藤堂のせいで僕が道を踏み外したのだと思っているのかもしれない。その視線がまっすぐに藤堂を射る、それだけで胸が苦しくなった。  確かにずっと愛してくれている家族を僕は大切に思っている。けれどそれ以上に、僕は藤堂に家族を与えたかった。だからここで僕は躊躇っていてはいけなかったのだ。家族のためにも藤堂のためにも、これ以上間違った選択をしてはいけない。僕はこの手を握ったから、もう逃げたりはしない。 「……最初に、佐樹さんに気持ちを伝えたのは、確かに俺です。それが間違いだったかもしれないと悩んだこともありました。それでも佐樹さんが好きです。子供の気まぐれ、気の迷いと思われてしまうかもしれませんが、俺は本気で佐樹さんと一緒にいたいと思っています」

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