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第718話 夏日 36-2
黙っていることで曖昧に誤魔化し続けて傷つく藤堂。僕の友達だと信じていたのに裏切られる姉たち。
それを思うと胸が引き裂かれるほどに痛む。それにすぐに気づけなかった自分が本当に嫌になる。けれどそれでもこの二人はそんな僕を優しく抱きしめていてくれる。
夕飯時、詩織姉は部屋に引きこもって出てこようとはしなかった。けれどずっと傍にいた保さんが、いまはもう落ち着いていると言うので、しばらくそっとしておこうと母や佳奈姉に言われた。食事は詩織姉と一緒に食べるからと、二人分を保さんが部屋に持って行くことになり、そんな姿を見つめる僕の視線は多分きっと不安が浮かんでいたのだろう。保さんは去り際「明日の朝はみんなで食べよう」そう言って笑ってくれた。
「そういえば今日は花火が上がるのよ。十九時からだからご飯終わってちょうどいいかもしれないわね」
「そうなんですか?」
夕飯作りの手伝いをしていた藤堂が母の言葉に反応を示す。僕はと言えば、詩織姉のことで頭がいっぱいになっていて、花火のことなど頭からすっかり抜け落ちていた。けれどいまは十八時少し前で、のんびり食事をして片付けをしても最初から花火は見られるだろう。
「ちょうど庭や二階の窓からも見られるわよ。都会みたいに大規模なものではないけど、綺麗よ。花火が終わったらお風呂に入れるようにしておいてあげるわね」
母の言葉にふっと微笑んだ藤堂の表情を見て、いつまでもくよくよしていても始まらないと思い直す。詩織姉はもう落ち着いていると保さんは言っていたのだから、明日の朝にはいつも通りに挨拶をしよう。藤堂に戸惑ったりするかもしれないけれど、僕があいだに入ってあげればいいだけのことだ。
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