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第720話 夏日 36-4

 なぜ笑っているのかがわからず眉をひそめたら、二人はますます笑みを深くした。  なんとなく疎外感を受けてムッと口を引き結んだら、それに気がついた藤堂がふっと目を細めて微笑んだ。その瞬間、情けないが引き結んだはずの唇が情けなく歪んでしまう。そんな優しい目で微笑まれては怒るに怒れない。それにこんな小さなことで母にまでヤキモチを妬いている自分が恥ずかしくなってしまう。 「ほら、佳奈。テーブルの上を片付けて頂戴」 「はぁい」  出来上がった料理を運んでくる母に、佳奈姉は渋々といった様子で立ち上がり空き缶をまとめてゴミ箱に放り込む。そして布巾でテーブルの上を拭き終わると、食欲をそそる匂いが鼻先を掠めていった。  今日の夕飯は想像通りだった。デミグラスソースのかかったハンバーグに、チーズたっぷりのマカロニグラタン。そして焼きたてのライ麦パン。どれも昔から僕の好きなメニューだ。これに自家製のりんごジュースが加わり、いつもの帰省初日メニューになる。毎年食べているけれど、それでも笑みが浮かんでしまうほどに母の料理は美味しい。 「優哉くんは手際がすごくいいし、なんでも知ってるから今日はお母さん楽ちんだったわ」  食卓に四人座るとそう言って母は至極嬉しそうに笑った。そしてそんな笑顔に藤堂は少し気恥ずかしそうにはにかむ。穏やかな二人の表情を見ていると、胸が熱くなるほどの幸せを感じた。藤堂が笑って、家族も一緒に笑ってくれる。それがなによりも嬉しかった。  明日――ここで詩織姉も一緒に笑ってくれたらいいなと思いながら、僕は「いただきます」と両手を合わせた。

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