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第722話 夏日 37-2

 いまの話の感じでは、佳奈姉は明良が同性にしか興味を持てないことに気づいている。そしてそれを知って姉の淡い恋心は儚く散ったというところだろう。それでもいまも友人としての関係を築いているということは、お互いそれを理解しているのだろうか。  ふて腐れたような顔でビールを飲んでいる佳奈姉を思わずじっと見つめてしまった。 「そんなことより、あんたはもっと気にすることあるでしょ」 「え?」  僕の向ける視線に目を細めた佳奈姉は呆れたようにため息を吐く。 「あんたが守ってあげなきゃ駄目なのよ。彼、いくら大人びてたってまだまだ若いんだから、あんたがしっかりしなくちゃいけないんだってわかってる?」 「あ、うん。わかってるよ」  いつもとは違う真面目な眼差しでこちらを見る佳奈姉に自然と背筋が伸びる。今日のことといい、もっと僕はしっかりしなくては駄目だなと痛感した。僕の事情まで藤堂に背負わせるようになってしまっていては駄目だ。藤堂は確かに強いと思う。けれどその強さは弱い心を補強するために作られた強さだから、強靱ではない。本当の藤堂は多分きっと目に見えるよりも傷つきやすかったり脆かったりする。  この先もずっと傍にいたいと思うならば、僕は藤堂に負けないくらいの強さと機敏さを身につけなくてはいけない。だから佳奈姉の言ったとおり僕の手で守ってあげられるように、藤堂の心を少しでも救えるようにならなくてはと僕は決意を固めた。 「ありがとう。それじゃあ、お願いね」 「はい」 「さっちゃん暇なら優哉くんのお手伝いしてあげて」 「ん?」  心の中で決意を新たにしていると、ふいにキッチンから離れた母が僕の肩を叩く。その手に顔を上げ母の顔を見上げてみれば、キッチンに立つ藤堂を指差した。 「お母さんお風呂のお掃除してくるから、食器の片付け手伝ってあげて」 「あ、うん。わかった」  パタパタとスリッパの音を響かせてリビングを出て行った母の背を見送りキッチンへ足を向けると、近づいた僕に藤堂はやんわりと優しく微笑んだ。

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