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第723話 夏日 37-3

 そんな藤堂の手元を覗いて見れば、大きな調理器具は片付け終わっていて、シンクには小さな食器類だけが残っていた。  「洗ったの拭けばいい?」 「はい、お願いします」 「母さんどうしたんだ?」  丁寧に食器を泡のついたスポンジで洗っていく藤堂を見上げて首を傾げると、藤堂の視線がふいに流れた。その先を目で追うと壁掛けの時計が目に入る。時刻は現在十八時四十五分過ぎだ。けれどその視線の意味がよくわからなくて首を傾げたら、また微笑まれた。 「お母さんみんなが花火を見ているあいだに片付けをするって言っていたので、出来る範囲で手伝いさせて頂きますから、皆さんと一緒に見てはどうですかって言ったんですけど、迷惑だったかな?」 「え、あっ、そんなことない。なんかありがとうな。お前にばかり気を遣わせてるな」  思いがけない藤堂の言葉を聞いて反射的に首を大きく左右に振ってしまった。そしてそんな僕を見つめる藤堂の目が優しくて、思わず頬が熱くなってきた。  それにしても相変わらずの気遣いだ。毎年のことで気づかずにいたけれど、思い返してみれば母は僕たちを優先するので作業の合間に上がる花火を見ていた。 「そういえば、上のお姉さんたちの部屋からは花火見られないんですね」 「あ、そうなんだよ。だから僕たちは二階から見よう。庭からも見やすいけど二階のほうがもっと見やすいし」  せっかく日程を合わせてきているのに花火を見られないのは残念過ぎる。僕や藤堂がいては詩織姉は部屋から出て来るのを躊躇うだろうから、母には夕食前にそう告げておいた。些細なことだけど、藤堂も気にしてくれたのかと思うと嬉しくなってしまう。  水で綺麗に泡を洗い流された食器を拭きながら、こうして隣にいるのが藤堂でよかったなと改めて思ってしまう。それと共に自然と顔が緩んでしまうが、それはどうやっても止めることができなくて俯きがちに口元を緩ませた。

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