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第726話 夏日 38-2
それを見た藤堂は慌てた声を上げて近づいてきた。けれど僕はそんな藤堂は気にも留めず、屋根の上に置いたサンダルを履いて、小脇に挟んでいたビニールシートを屋根の上に広げた。
「あ、そこにある座布団二枚取って、お前もこっち来い」
振り返って部屋の隅にある座布団を指差せば、困惑した面持ちで藤堂はそれを取りに行く。その隙に机に置いていた麦茶とグラスを手に屋根の上に戻ると、僕はサンダルを脱いでビニールシートの上に立った。その間もずっと夜空には鮮やかな花火が打ち上がっている。
「佐樹さん?」
「うん、こっち来い。ここから見やすいから。あ、ここの屋根は平らだから、落ちる心配はしなくていいぞ」
座布団を手に戻ってきた藤堂に笑みを返して手招けば、藤堂も窓枠を跨ぎビニールシートの上に降り立った。いまだ戸惑っている様子の藤堂から座布団を受け取り足元に二つ並べて置くと、僕はその場に腰を下ろし足を伸ばす。そしてもう一つの空いた座布団を叩いて藤堂を促した。
「花火よく見えるだろ」
「打ち上げ場所近いんですね」
「うん」
しばらく戸惑っていた藤堂だが、僕が前を向いて空を見つめているうちにゆっくりと隣に腰を下ろし胡座をかいた。
花火は藤堂の言うようにこの家からさほど離れていない場所から打ち上がっている。その証拠に身体にも響きそうな音の大きさと、大輪の花がそれを示していた。
「花火を見るなんて、何年ぶりだろう」
「いつも夏休みはバイト漬けだったのか?」
「はい」
「明日はさ、神社でお祭りあるからそれ行こうな」
明るく華やかな光に照らされる藤堂の横顔を見つめながら、シートの上に置かれた藤堂の手に自分の手をそっと重ねる。するとそれを察した藤堂の手が優しく握り締め返してくれた。
花火の音しか聞こえないはずの中で、自分の心音がトクトクと音を早めていく。
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