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第729話 夏日 39-1
花火が夜空を彩る中、二人でずっと手を繋ぎながら空を見上げていた。特になにを話すでもなく、ただ寄り添っていた。空に次々と現れる大輪の花は様々に色や形を変えて打ち上がる。大掛かりで派手な花火はそれほど上がらないけれど、それでも花火の光を見ているだけで気持ちはその美しさに高揚した。そんな中、空を見上げる藤堂の横顔を時折盗み見てはその穏やかさにほっとした。
両親の話をしていた時のような苦しそうな表情はいまはない。それだけのことでも安堵することができるくらいに、あの時の藤堂は辛そうだった。そして打ち上がりから一時間半ほどで花火は終演を迎えた。けれど僕らはその場所から動き出しはしなかった。夜空に瞬く星をただぼんやりと眺めながら、肩を寄せ合い静寂に包まれる。
街のようにどこにでも明かりがあふれているような場所ではないから、屋根の上から見える明かりはごく僅かだ。そんな闇夜の中から微かに虫の音が聞こえ、穏やかな時間が流れていく。ふいに肩に重みを感じて振り向くと、藤堂の頭が肩の上に載せられていた。そのぬくもりが愛おしくて少し口元を緩めながら、そっと髪を梳いて撫でてあげれば、藤堂は静かにまぶたを閉じた。
藤堂にはもっとゆっくりとした時間が必要だ。急かされ追い立てられるような生活で心も身体もきっと疲れ果てているだろう。もっとこうしてなにも考えずにいられる時間を増やしてあげられればいいなと思う。せめて自分が傍にいる時くらいは気負うことなくありのままでいられるように、その心を抱きしめていてあげたい。僕のことが負担になるようなことがなければいいなと、もたれかかる藤堂の肩を優しく抱きしめた。
そしてそれからどのくらい経ったのかわからないくらい、夏の夜をただ静かに二人で過ごしていると、部屋の扉がノックされた。それは返事をする前に開かれて、来訪者はなんの躊躇いもなく部屋の中へ入ってくる。その音に藤堂は身体を起こし、僕と一緒にその音の主を振り返った。
「まーた、あんたは屋根に上がってる」
「あ、佳奈姉」
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