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第730話 夏日 39-2
「まったく、いちゃついてないで二人ともお風呂入っちゃいなさい」
「え、風呂? ちょっと」
窓から顔を覗かせ眉をひそめる佳奈姉の姿に目を瞬かせると、言うだけ言って姉は部屋を出ていこうとする。けれどふと先ほどの言葉に違和感を覚えて、屋根を這い窓から室内を覗き込めば、振り返った姉はあっけらかんと言い放った。
「二人で一緒に入っちゃいな」
「なんでっ」
「時間短縮よ。姉さんたちも一緒にもう入ったし、あんたたちも一緒で平気でしょ」
あ然とする僕をよそに用件は済んだとばかりに部屋の扉は無情にも閉められた。どうしたらいいものかとゆっくりと藤堂を振り返ると、苦笑いを返されてしまう。二人で入るのは初めてではないけれど、その時のことを思い出すと自然と頬が熱くなってくる。
あの時はとっさに僕が風呂場に逃げ込んだのが悪かったのだが、急に改まってそういう状況になるというのはなんだか気恥ずかしい。いや、ただ一緒に風呂に入ったくらいならばこんなにも恥ずかしさはない。
「佐樹さん、顔赤いよ」
「言うな」
「可愛い」
恥ずかしさのあまり思わず顔を背けそうになるが、ゆっくりと近づいてきた藤堂に自然とそちらへ視線が向いてしまう。視線をそらしたいのに、そらすことができなくて、じっとレンズの向こう側にある瞳を見つめてしまった。すると目の前まで近づいてきたその目に捕らわれたような気分になる。そして誘われるように目を閉じてしまった。
ふわりと優しく唇に触れる感触が温かくて、胸がきゅっと締め付けられるような、けれど満たされる不思議な感覚に陥る。
「藤堂」
「なに?」
「ん、好き」
そっと目を開いた先にある微笑みに、ぎゅっと締め付けられた胸がトクトクと音を早める。胸が熱くなって、熱さが心を揺さぶって、言葉にしつくせない想いがあふれた。想いの先にどうしても触れたくなって、そっと手を伸ばす。そしてそんな僕の手には藤堂の手のひらが重なり、指を絡ませ二つの手が繋がる。
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