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第731話 夏日 39-3

 その手を少し引き寄せれば、再び唇に優しい口づけが落とされた。しばらくそんなやりとりを繰り返して、ふっとお互い顔を見合わせて笑ってしまった 「そろそろもう行かないとな」  いつまでもこんなことをしていてはまた佳奈姉がやって来ると、僕らは屋根の上を片づけると二人で一階へ下りた。するとリビングからは四人の明るい笑い声が聞こえていて、少しほっとした気分になる。そしてそれと共になんとなくまた藤堂に触れたくなり、そっと手を握ったらやんわりと目を細めて笑ってくれた。その眼差しから多分同じことを思ってくれているのだろうなということが伝わった。  実家の風呂は自宅のマンションより広く、男二人が入っても十分に余裕がある。少し躊躇いがちに入ると、藤堂は楽しげに目を細めて笑った。ぎこちない僕を見て面白がっているような雰囲気さえ感じて大人げなくふて腐れてしまったが、甘やかされなだめすかされ、いいように手のひらで転がされてしまう。  髪を優しく洗われて背中も流してもらった。ここまで至れり尽くせりな状態で風呂に入ったのは、幼少の頃以来ではないだろうか。僕はというと藤堂の髪を洗わせてもらって、自分のとは違う髪質や無防備な姿にドキドキとさせられた。そしてまた以前のように二人で湯船に浸かり、たわいもない会話をしながらのんびりしていたら、ウトウトとしてしまって何度かうなじに口づけられ慌てて目が覚めた。湯船に浸かって安心して寝てしまう癖はこんな時にも出てしまうようだ。  少し長湯をして風呂から上がった頃には、身体がホカホカとして冷たい空気に当たりたくなるほど温まっていた。なに気なくリビングを覗けばそこにはソファに座っている佳奈姉と母しかおらず、僕の顔を見るなり二人して「相変わらず長湯ね」と言って苦笑いを浮かべた。 「優哉くん付き合わされてのぼせなかった?」 「大丈夫です。ただ寝てしまうので少し焦りました」 「あんた、人と入る時まで寝るとかどれだけ神経図太いの」 「うるさいな」  言いたい放題の母と佳奈姉に眉をひそめながら、僕はリビングに足を踏み入れキッチンの冷蔵庫へと向かった。

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