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第732話 夏日 39-4
そして冷凍庫の引き出しを引き開けて、その中から箱に入っていた棒状のアイスを二本取り出す。そして振り返ってその一本を藤堂に差し出した。そんな僕の仕草にリビングの入り口に立っていた藤堂はゆっくりと近づき、僕の手からそのアイスを受け取った。
「さて私も入ってきちゃおう」
ソファから立ち上がり伸びをすると、飲みかけのビールを飲み干し佳奈姉はそそくさとリビングを出て行った。相変わらずの飲酒量でビールはだいぶ消費されたようだ。うちの家系はほぼ太らないので、毎日のようにビールを飲んでいるのに佳奈姉の体型はかなり細身なほうだ。そして母も詩織姉も華奢な印象を与えるくらいに細い。ふとそんなことを思い、Tシャツの袖から伸びる自分の腕を見つめて複雑な気分になった。男の割に僕の身体も例に漏れず細い。
「どうしたの佐樹さん」
「ん、いや細いなと思って」
じっと腕を見つめている僕を不思議に思ったのか、首を傾げて藤堂が顔を覗き込んでくる。そして僕は思うままにぽつりと呟いた。そんな僕を藤堂は目を瞬かせて見つめる。多分なぜいきなりそんなことを思ったのだろうと、疑問符が頭の中に浮かんでいるのだろう。けれどそんな藤堂の疑問には答えず、僕は自然と手を伸ばし藤堂の腕や胸にぺたぺたと触れる。藤堂は体格がいいという感じではなく、細身ではあるけれどほどよくついた腕などの筋肉は男らしい。鍛えている風でもないのでバイトでついたものだろうか。
「お父さんも細かったからうちはみんな細くなっちゃったのよね」
「うん」
僕の行動の意味を悟ったのか母は小さく笑って目を細めた。そして僕は母の言葉に大きく頷いて、ひとしきり触れた藤堂を見上げると無駄な肉がついてない頬を軽く引き伸ばした。
「うちの父さんは僕が高校に入った年に病気を患って、もういないんだ。藤堂には話したことなかったなそういえば」
聞いていいのか、触れていいのか、わからないというそんな表情をした藤堂に、僕は笑みを浮かべて返した。
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