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第741話 夏日 42-2

 いまの瞬間を収めておきたい。不思議とそんな気持ちが強くなった。やはり好きな人が笑っているのが幸せだからだろうか。 「負けたなぁ」  太陽の位置が高くなり昼が近づいたので引き上げの頃合いか、釣れた魚を見下ろして保さんがそう言いながらもにこにこと笑った。どうやら今日は藤堂のほうが釣れたようだ。水際で涼んでいた僕は川の水をざぶざぶと波立たせながら二人のもとへ近づいた。そして覗いた大きめのクーラーボックスの中はなかなかの大漁だった。  そして僕がクーラーボックスを眺め、二人が釣り具を片付けていると、ふいに遠くから声をかけられた。 「あれ?」  その声に顔を上げると沿道のほうから母や姉たちが近づいてくる。その姿と彼女たちの手の荷物に気づき、僕は裸足のまま駆け出し彼女たちの傍へ向かった。みんなの手には大きなバスケットや折りたたみのテーブルなどがあり、僕はとりあえず一番重そうなものを受け取った。 「どうしたの?」 「せっかく川辺に三人いるなら、みんなでここでお昼にしようってお母さんが言いだしたの」 「保さんが釣ったお魚すぐ焼けるように炭も持ってきたわ」  重たいテーブルに解放された佳奈姉は肩をすくめて笑い、大きなバスケットを抱えた母は至極楽しげに笑った。そしてその少し後ろからおずおずと詩織姉が炭の入ったかごや小物などを持って付いてくる。 「お義母さん、今日は俺よりも優哉くんのほうが大活躍でしたよ」 「あらそうなの、優哉くんすごいわ。それじゃあ、お腹いっぱい食べられるわね」  朗らかな保さんの笑みに母も嬉しそうに笑う。そんな二人の笑顔に藤堂は気恥ずかしそうにはにかんだ。そんな和やかな笑顔を見ながら、僕は岩場から少し離れた場所でテーブルを組み立てることにした。

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