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第742話 夏日 42-3

 そしてしばらくテーブルと格闘していると、しゃがみ込んでいた僕に影がかかり、その気配に僕は顔を上げて首を傾げた。  そこにいたのは詩織姉で、なにか言いたげにじっと見つめてくる。疑問符が頭に浮かび首を捻りつつ見つめ返せば、なにやら小さな声が聞こえた。しかしそれはあまりにも小さくはっきりと聞き取れない。 「どうしたの詩織姉」 「あ、えっと……昨日はぶってごめんなさい。ちょっと感情的になり過ぎた」 「ん、ああ、僕は平気だよ。それに僕もちょっと配慮が足りなかったし」  前もってちゃんと考えておけばよかった。そうすればあんなにこじれるようなことはなかったかもしれないし、みんなに心配をかけることもなかったかもしれない。これは詩織姉が悪いわけではない。 「彼、気を悪くしてなかった?」 「藤堂? 全然そんなことないよ。藤堂は優しいから心配してくれてた」 「そう」  よほど気にしていたのか、どこか緊張していた詩織姉の顔がほっとした表情に変わる。 「いきなりこんなことになって、納得いかないかもしれないけど。でも僕がいまこうしていられるのは藤堂のおかげだと思ってる」  なんのしがらみもなく目の前のことが楽しいと思える。いまの僕は去年までの僕とは明らかに違うと思う。ずっとどこか心に重石が乗っていた気分だったけれど、藤堂と一緒にいるようになってそれが少しずつなくなって、いまではほとんど罪悪感や後ろめたさに苛まれることはなくなった。押し込めて忘れようとしていたものに向き合って整理できたのだと思う。 「僕と付き合っているっていうことが目について、気になってしまうかもしれないけど。藤堂を見てやってくれないかな。藤堂は本当に優しいし、いい奴なんだ。少しずつでいいから詩織姉に知ってもらいたいよ」

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