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第744話 夏日 43-1
川辺で魚を焼いたり母のお弁当を広げて食べたり、キャンプ気分をたっぷりと味わったあと僕たちは、陽が沈む前にのんびりと帰路についた。重い荷物のほとんどは僕ら男性陣に任せて、母たちは身軽に前を歩いていく。
夕方からの祭りを楽しみにしている彼女たちは、いまから浴衣を着るのが待ち遠しいのか浮かれた様子で笑顔を浮かべていた。川から実家までは歩いて十分ほどだ。のんびりと歩いても十五分はかからない。
川からほぼ一本道である砂利道をたわいもない会話をしながら歩いていると、次第に家の門が見えてくる。なに気なくそちらに視線を向けて、僕は首を傾げた。門の傍に人が二人立っている。近づくとその二人は至極見覚えのある組み合わせだった。その二人に僕は思わず驚きの声を上げてしまう。まさか彼らがこんな場所にいるとは思いもよらない。
「どうしたんだ二人ともっ」
声を上げて僕はつい走り寄ってしまう。顔を見合わせ立ち尽くしていた二人は僕の声に顔を跳ね上げこちらを振り返った。
それは見間違えようもない慣れ親しんだ二人だ。一人は茶色いふわふわの髪に優しい細目、そして背の高さが目立つ男子。もう一人は黒髪を肩先で整えた目のぱっちりとした美少女と言っても過言ではない女子。
「先生っ」
「西やんっ」
僕のかけた声に振り返った二人――片平と三島は明らかにほっとした表情を浮かべた。そして走り出した僕のあとを付いてきた藤堂に、二人は表情を曇らせる。
「ごめん優哉」
二人ほぼ同時に力なく藤堂に向け謝罪の言葉を紡ぐ。三島に至っては申し訳なさそうな、泣き出しそうな顔に変わった。そんな二人の表情になにかを悟ったのか、藤堂は困ったように眉を寄せ、小さく息をついて「悪かった」と二人に謝る。
「それにしてもよく僕の家がわかったな」
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