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第747話 夏日 43-4
そういえば昨日の夜も藤堂は電話を受けていたようだし、よほど藤堂の母親は藤堂自身に執着しているように感じる。
いま藤堂の母親の精神状態が落ち着いていないという、込み入った話は出さなかったけれど、異様なまでの執着は母にも感じ取れただろう。
「ご迷惑かけてすみません。もし母のことで面倒が起きたら二人のほうに合流するつもりで」
「優哉くん」
一通り話終わると、藤堂は母に向かって頭を下げる。しかしそれに対して母は藤堂の言葉を若干遮りつつ満面の笑みを浮かべた。
「お母様から二人に電話が来た時、優哉くんがそこにいればいいのよね?」
「え、あ……はい」
急に向けられた笑みの意味がわからなかったのか、戸惑ったように藤堂は眉を寄せた。けれどまっすぐに視線を向ける母にぎこちなく頷く。すると小さく首を傾げて母は思いもよらぬ言葉を発した。
「だったらこのまま今夜は三人一緒にいたらどうかしら?」
「え?」
それには藤堂はもちろん、片平や三島も驚きのあまり固まってしまった。当事者でない僕でさえ一瞬、母の言ってることがわからなくなりそうな困惑が押し寄せてくる。
「二人のお父さんとお母さんにはおばさんが連絡を入れてあげる。今夜は近くの神社でお祭りがあるのよ。二人も一緒に行きましょう? 夜は車でキャンプ場まで送ってあげてもいいし、なんなら二人とも泊まっていく? 夜に一緒にいることがわかればお母様も少しは信じるんじゃないかしら」
「母さん、いいの?」
いつかかってくるかわからない電話だから、確かに母の言うとおり三人一緒にいるのがいいかもしれない。けれど母は人をたばかったりするのは好まないタイプだ。それなのにそんなことをさせてしまってもいいのかと、少し心配になってしまった。
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