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第749話 夏日 44-2

 それからみんなで今晩の相談をした。山の方角にある神社は実家から歩いて二十分ほどのところにある。いまだ砂利道も多いこの辺りを下駄で歩くのは大変なので、毎年みんな車で向かうことになっていた。  今回は人数が大幅に増えてしまったので実家の車と保さんの車に分かれ、神社へと向かうことにした。そして神社の祭りを楽しんだはあとは、そこから車で十分ちょっとくらいのところにある、健康ランドのような大きめな銭湯に寄って帰ることになった。 「ほんとあずみちゃん可愛い、どれ着せても元がいいとなんでも可愛いわねぇ」  話し合いを終え祭りに行くまで少し時間が余ると、姉たちはせっかくだからと言いながら、片平をまるで着せ替え人形のようにして浴衣をあれこれ着せていた。毎年のように母が手縫いの浴衣を作るので浴衣はまさに選びたい放題だ。しばらくして満場一致で浴衣が決まると、今度は詩織姉が片平の肩先までのまっすぐな髪を綺麗に結い上げて、大きな飾りのついたかんざしを挿した。 「なんだか色々、ありがとうございます」  姿見の前に立たされた片平は少し照れたように頬を染めながら、両脇に立つ佳奈姉と詩織姉に頭を下げる。けれど二人ともそんな片平を見ながら可愛い可愛いと上機嫌だった。元々煌びやかなものや可愛いものが好きな詩織姉と、下に妹が欲しかったらしい佳奈姉だから片平の反応が嬉しくて仕方がないのだろう。 「あっちゃん可愛いね。おばちゃんたちにも写真送ってあげる」  そう言って三島は携帯電話で片平の写真を撮るといそいそとメールをしていた。そして女性陣全員が着替え終わるとそろそろ出かける頃合いになる。帰りの着替えなどを車に積み込み、全員で玄関先に集まり記念撮影すれば、いよいよ神社へと向かうこととなった。  町にある神社はそれほど大きなものではないけれど、昔から山の神様が住まうと崇め奉られた由緒がある古い神社だ。夏に納涼祭、秋には豊穣祭が三日間行われ、たくさんの人が訪れる。秋の豊穣祭はもう僕自身ここ数年行ったことはないけれど、夏同様、相変わらず賑やからしい。神社までの道のりは一つ目の鳥居を抜け長い参道をしばらく歩き、さらに二つ目の鳥居をくぐり石階段を上る。石階段の先には四、五メートル程の短い参道があり、さらに階段を上りきればすぐ目の前に神社が見える。

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