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第750話 夏日 44-3
階段の上は比較的静かでおみくじやお守りなどが買える場所になっていて、賑やかなのは階段下のほうだ。長い参道の左右やその裏道に所狭しと出店が並び、人であふれている。そして毎年納涼祭、豊穣祭の最終日には階段下にある下社の近くに作られた舞台で舞が奉納される。それは毎年見事なものだった。いつもならその舞を見るために最終日に合わせて帰省するところだが、藤堂のバイトの都合もあり今回は祭りの初日となった。いま舞台の上では太鼓が叩かれ祭り囃しが聞こえる。
「西岡先生ごめんね」
「ん、なにがだ?」
詩織姉と保さん、佳奈姉と母、そして残り僕ら四人といつの間にか分かれた道すがら、ふいに後ろを歩いていた片平がこちらを覗き込んできた。けれど謝られた意味がわからず僕は思わず首を傾げてしまった。
「今日は二人でお祭りデートだったのに、私たちまでついてくることになっちゃったでしょ」
「えっ、あ……それはいい。藤堂の家のことも心配だし、大丈夫だ」
ふいに飛び出したデートという単語に若干動揺が隠せなかったが、それでもにやけそうになった口元を引き結び僕は首を横に振った。
「あ、でも私たちは少し離れて歩いてるね。手繋いでいいわよ」
「別に、そんな」
クスクスと口元に手を当てて笑う片平は、三島の手を引いて立ち止まるとひらひらとこちらに手を振った。それに激しく動揺して立ち止まりそうになったら、隣を歩いていた藤堂に手を握られる。
「佐樹さん、行こう」
「え、あ、うん」
参道を埋め尽くすたくさんの人、時折肩がぶつかりそうになるほどの人混みだ。僕らが手を繋いで歩いたところで気を留める人などいないだろう。しかしわかってはいるけど少し頬が熱くなった。
「それにこうしていないと、佐樹さんすぐに先に歩いて行っちゃうでしょう」
「あ、それは悪かった」
ふと藤堂の言葉で初めて一緒に出かけた時のことを思い出した。人混みが苦手な僕は藤堂を置いてさっさと歩き始め、呆れさせてしまったのだ。
「いいですよ。気にしてませんから」
「うん」
過去の失態をいま反省しても仕方がないかと小さく頷けば、藤堂はやんわりと目を細めて笑ってくれた。その優しい眼差しに少し胸がとくんと高鳴る。それは提灯の暖かな灯りと祭り囃しが広がるこの空間が、なんだか日常や現実を忘れさせてくれるような、不思議な感覚に陥った瞬間だった。
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