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第751話 夏日 45-1
普段は人混みが苦手ですぐにでもその場から抜け出してしまいたいと思うのだけれど、祭りというのは本当に不思議なもので、そんな喧騒がいまはわくわくとした気分にさせられる。時折片平たちや姉たちとも合流しながら、あれやこれやと出店を見て回った。
たこ焼きに焼きそばにお好み焼き、大判焼きやクレープにりんご飴にわたあめなど、普段はそこまで食べたいと思わないものまで、なんだかお祭りに来ると美味しそうに見えてきてしまう。それに出店でやっているようなゲームは子供っぽいと思うけれど、ついムキになってしまったりもする。そんな中、保さんが射的で見事に撃ち当てたクマのぬいぐるみを、詩織姉が至極嬉しそうに抱きしめていた。
「佐樹さんもなにか欲しい?」
「えっ、いやいい。特には」
僕の視線の先に気づいた藤堂が顔を覗き込むように身を屈めてくる。その視線に驚いて肩を跳ね上げたら、小さく笑われて頬が熱くなった。特になにかが欲しかったわけではない。なんとなく無邪気に笑う二人が幸せそうでいいなと思っただけだ。けれど繋がれた手を強く握りしめたら、ふいに手を引かれて藤堂の腕の中にすっぽりと収まってしまった。
一瞬なにが起きたかわからなかったけれど、ぎゅっと強く身体を抱きしめられていまの状況を理解した。すると途端に先ほどの比ではないくらい顔に熱が集中して熱くなってしまう。けれどこうしているのは目立ってしまうという気持ちがあるのに、藤堂の身体を押し離すことができなかった。
「藤堂、恥ずかしい」
「すみません、佐樹さんが可愛かったから」
離れる瞬間にさり気なくこめかみに口づけられて心臓が跳ねた。そして思わずまた手を握りしめてしまう。俯いた顔が赤くなっているだろうことが自分でもわかって恥ずかしくてたまらない。それなのにまっすぐ自分を見下ろす藤堂の視線が感じられて、ますます顔が上げられなくなってきた。
しばらくそうしていると急にシャッター音が響いた。それに驚いて反射的に顔を上げてそちらを見ると、携帯電話を構えた片平がゆるりと口角を上げて笑った。
「先生、可愛い」
「お前、そういうの、撮るなよ」
「えー、だってなんかいいシーンだなって思ったから」
まったく悪びれていない口ぶりで片平はまた口元に手を当てて笑う。
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