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第752話 夏日 45-2

 そしてふっと我に返り周りを見渡せば、片平のほかに僕らの様子を見ていたらしい三島や詩織姉、保さんまでもがにこやかに笑っていた。それに驚きまた顔を俯かせると、再びみんなが小さく笑った。 「佐樹ってあんまり甘えるイメージなかったけど。そういう顔もするのね。なんだかすごく意外で可愛い」  からかうように大きなクマのぬいぐるみで僕の頬をつつきながら、詩織姉は楽しげに笑う。それが照れくさくてふいと顔をそらすが、彼女はますます笑みを深くするばかりだ。眉をひそめられたり嫌な顔をされたりしないのは嬉しいけれど、気恥ずかしさのほうが優ってしまって、どんな反応をしていいのかわからなくなる。 「恥ずかしいから、そういうこと言わないでくれよ」 「ごめんごめん。あんまりにも可愛いから、からかっちゃった。そんなふてた顔しないで」  クマのぬいぐるみに今度はよしよしと頭を撫でられて、複雑な心境になってしまう。三十路を過ぎたいい大人がふわふわとした甘ったるい恋愛している。それを知られるのは羞恥以外のなにものでもない。けれど縋るようにちらりと藤堂を見上げたら、僕の気持ちとは裏腹に涼しい顔をして微笑んでいる。少し悔しくて思わず不満をあらわに口を引き結んでしまった。 「そんな顔しないの。お詫びにしばらく二人っきりにさせてあげるから」  気持ちが晴れぬまま顔をしかめていたら、クマに眉間を撫でられた。そしていつの間にかくるりと方向転換させられて、僕と藤堂は楽しげに笑う詩織姉に道の先へ押し出されてしまう。慌てて後ろを振り返るけれど、そこにいた四人はひらひらと手を振るばかりだ。なんだか丸め込まれた感じがしてすっきりしない。 「佐樹さん、手、離れると寂しいかな」 「お前まで恥ずかしいこと言うなよ」  ふて腐れたように俯いて歩く僕を、藤堂は身を屈めて覗き込んでくる。そして離れてしまった手を促すようにそっと指先で触れる。  まっすぐに見つめられると、触れられた指先から鼓動が伝わってしまいそうだ。けれど戸惑いながらも僕は藤堂の指先を握り返した。その指先はするりと僕の手に優しく絡みつく。繋ぎ合わされた手と笑った藤堂の顔に、ほんの少し胸のざわめきが落ち着いた気がする。 「悪いなんか、ちょっといまの八つ当たりっぽかったかも」 「気にしてません」 「ごめん」

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