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第753話 夏日 45-3

 甘えてるとわかっているのに、つい優しい藤堂に気持ちが寄りかかってしまう。このままでは駄目だなと思うけれど、そんな僕を見つめて藤堂が顔を綻ばせるから、なんだかほっとした気持ちになる。 「あっ……」 「どうしたんですか?」 「うん、いや金魚。夏っぽいなと思って」  歩きながらふっと視線を流した先に、金魚すくいの出店があった。赤や白や黒などの金魚が広い水槽の中でたくさん泳いでいる。それを目に留めて、小さい頃に父親に金魚をねだったことを思い出した。その時は赤い金魚が二匹だった。二匹ともずいぶん長生きをして、小学生の頃から高校卒業くらいまではずっと家に帰ると水槽で二匹仲よく泳いでいた。 「藤堂、金魚すくい得意?」 「金魚すくいですか? うーん、正直言ってまったく得意じゃないですね」 「赤いのと黒いのが欲しい。うちで飼う」 「俺の言葉をいま完全にスルーしましたよね」  難しい顔をする藤堂の表情に目を細めて笑うと、僕は渋る藤堂の腕を引いて金魚すくいの店の前にしゃがみこんだ。とりあえずまずは試しにとポイを一つずつ手にするが、いまだ藤堂の顔は渋いものだ。その様子から本当に得意じゃないんだなと、思わず横顔を見つめて笑いを噛みしめてしまった。  案の定、数回試したあとにポイがすっかり破れてしまった。もう一度ともう一度と三度粘ってみたけれど、残念ながら藤堂のお椀に金魚が入ることはなかった。ほんの少しだけ眉間にしわの寄った藤堂に笑いながら、「隣の兄ちゃんはやらないの?」と店主に声をかけられてようやく僕も水面に目を向けた。 「藤堂どれがいい?」 「え?」 「赤いのは僕が選ぶから黒いのは藤堂選んで」  戸惑いの声を上げた藤堂に口角をゆるりと上げ笑い返すと、僕は濡らしたポイを少し斜めに水面に落とし、狙った赤い金魚をすぐさますくい上げ、お椀の中に滑り込ませた。 「もしかして、佐樹さん得意だった?」 「うん、実は」  驚いた表情を浮かべる藤堂と店主にふっと僕が笑みをこぼせば、藤堂は目を瞬かせ、店主は少しだけ苦い顔をした。 「どれがいい?」 「ああ、じゃあ、この子」  しばらく水面を眺めてから、藤堂は小さい身体ながらも元気のいい少しまだら模様の入った黒い金魚を指差した。そして僕はその指先を視線で追い、二匹目をさっとすくい上げた。

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