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第754話 夏日 46-1
僕の手際に「兄ちゃん上手だなぁ」と感心するような声を上げた店主に、笑みを返して僕はお椀に入った二匹を彼に手渡した。その瞬間、二匹だけでよかったという安堵した表情が目に見てわかり、また僕はふっと息を吐くように笑ってしまう。
「大事に育てるな」
「すくったのは佐樹さんですよ」
「うん、でも藤堂が選んだから」
苦笑いを浮かべた藤堂に笑みを返しながら、金魚の入った袋を持ち上げ僕は実に満足した気分でそれを見つめた。そしてしばらく提灯の明かりにかざし金魚を見つめ、ふと僕は後ろを振り返る。そして視線を右へ左へと流し、母と佳奈姉を探した。人混みにまぎれやすい二人は思ったよりもすぐ傍にいた。佳奈姉が僕の視線に気づき、母の浴衣の袖を小さく引いた。
「あらあら、金魚すくいをしたのね」
カラコロと下駄を鳴らしながら近づいてきた母は、僕の手にぶら下がる金魚の入った袋を見つめ目を細めた。
「家に金魚鉢まだあったよな?」
すくったあとに思い出したが、これから銭湯に行くのだった。このまま持ち歩いてはせっかくすくった二匹が可哀想だ。
「小さいのも大きいのもまだ納屋にあるはずよ。佳奈、家に寄ってもらってもいい?」
「いいわよ。どうせそんなに距離は変わらないし」
「寄るってなにかあった?」
母と佳奈姉の会話に少し疑問を感じて首を傾げると、母は後ろを振り返り片平や三島たちを指差した。
「二人の親御さんが着替えを持ってきてくれるって言うから、近くで合流しましょうってことになったのよ。お母さん挨拶してくるわ」
「あっ、それでまだ飲んでないんだ」
「うるさいわね。あとでたらふく飲むわよ」
いつもだったらビール片手に歩いているのに、なにか違和感があると思ったらそういうことかと納得してしまった。そんな僕の視線に佳奈姉はこちらを少し睨むように目を細める。
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