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第755話 夏日 46-2

「もうすぐ行くの?」 「そうね、あと十五分くらい経ったら出ようと思ってたわ。でも金魚さんがいるからちょっと早めに行って金魚鉢に移してあげましょうか。八時にお風呂屋さんで合流しましょ」 「うん、わかった。ありがとう」  差し出された手に金魚を渡すと、佳奈姉を促し母は片平と三島のもとへ向かっていった。 「なんだか色々とすみません」 「お前が謝る必要はないよ」  僕らのやり取りを見ていた藤堂が急に申し訳なさそうに頭を下げる。けれども僕はその頭を軽く撫でて笑ってみせた。  確かに母親のせいで心苦しさはあるだろうが、これは藤堂が気に病むことではない。離れた手を繋ぎなおして、僕は藤堂の腕を引いて歩き出した。いまは少しでも余計なことを考えずにこの場の雰囲気を楽しんで欲しい。そう思って賑やかな祭り囃しが聞こえる下社近くにある舞台までやってきた。人が立ち止まり混雑はしているが、舞台が高いので太鼓や笛を演奏している人たちの姿はよく見える。 「今日明日は祭り囃しだけど、最後の日はここで舞が奉納されるんだ」 「そういえばこの神社ってどんなご利益あるんですか」 「うーん、確か五穀豊穣、商売繁盛、家内安全とか、そんなのだった気がする」  太鼓や笛などの囃しを聞きながら、藤堂の質問にぼんやりと記憶にあるものを上げていく。けれどそれと共に僕はふともう一つ思い出した。そんな僕に藤堂は不思議そうに首を傾げてこちらを見つめてくる。 「あと、ここは縁結びも密かにご利益あるんじゃないかって言われてるんだ」 「密かに?」 「うん、昔々山の神様がこの地を訪れた時にこの土地の娘に恋をして、娘が住むこの土地を護ろうと思ったのが始まりだとも言われてる。最後の日の舞がそれにちなんだ物語になってるんだ」 「へぇ、そんな逸話があるんですね」

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