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第756話 夏日 46-3
「あとから付けられた話かもしれないから、嘘かほんとかわからないけどな。まだ時間あるし、神社のほうに行ってみる?」
興味深げに神社を振り返った藤堂の顔を下から覗き見ると、ふいに視線を下ろした藤堂とぶれることな目が合う。急なことだったので心の準備がなく、思わず心臓が跳ねてしまった。慌てて体勢を立て直し俯いた僕に、今度は藤堂が僕の顔を覗き込むように身を屈めた。
「行ってみてもいいです?」
「うん」
じっと見つめてくる視線に心臓をドキドキとさせながら頷けば、藤堂は嬉しそうに柔らかく微笑んだ。
長い石階段を三、四メートルくらい上っていくと、小さな佇まいながらも綺麗な上社が参拝者を迎える。出店が並ぶ下の境内とは違い、神社のほうはそれほど混み合ってはいなかった。まばらに人がいて、おみくじやお守りなどを買い求めている。この辺に住んでいる人なら、縁結びにもご利益があるらしいという話は知っている人が多い。
親子連れなどもいるがカップルや女の子同士の友達連れが多かった。しかし人が少ないと手を繋いでいるのが目立つ。僕はそっと手を離し藤堂の着ている服の裾を少し指先で摘んだ。その感触に気づいたのか、藤堂は目を細めて笑った。
「神社って二礼二拍手一礼でしたっけ」
「うん、そう」
水舎で手や口をすすぎながら、藤堂が首を傾げた。そんな仕草に僕は頷いて、濡れた手をハンカチで拭くと、上社に向かっていく。参拝はそんなに並んでもおらず、すんなり済ませられそうだった。
「軽くお辞儀してから賽銭入れて、鈴を鳴らしたら深く二礼して、二回柏手を打つ。もう一回深く一礼して最後退く時に軽く頭を下げるのが正式らしい。まあ、みんなうろ覚えで様々だったりすること多いけどな」
「年始の初詣くらいしか神社って行かないので忘れがちですね」
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